肺がんの転移について知る

がんの転移とは

転移とは、がん細胞が別の部位に移動し、そこで増えることをいいます。

がん細胞は、血液やリンパ液の流れに乗って移動し、行き着いた先で増えていきます。
肺には多くの血管やリンパ管が集まっているため、肺から他の部位への転移、他の部位にできたがんから肺への転移、どちらも起きやすいといえます。

原発性肺がんと転移性肺腫瘍

最初に肺にできたがんは「原発性肺がん」、他の部位にできたがんが肺に転移したものは「転移性肺腫瘍」と呼ばれます。
たとえば、大腸がんが肺へ転移したら、“大腸がんを原発とする転移性肺腫瘍(大腸がんの肺転移)”、肺がんが脳へ転移したら、“肺がんを原発とする転移性脳腫瘍(肺がんの脳転移)”です。

転移性肺腫瘍は、もとのがんの性質を持っているので、原発性肺がんとは治療方針が異なります。このため、原発性か転移性かを見分けることはとても大切です。

初めて肺にがんが発見されたときは原発性肺がんである可能性が高いのですが、他の部位にがんがある場合や、以前、他のがんにかかったことがある場合は転移性肺腫瘍の可能性もあります。転移性肺腫瘍は、がんが2個以上であることが少なくありません。肺に転移しやすいがんとしては、大腸がん、乳がんが挙げられます。

原発性か転移性かを見分けるには、採取した肺のがん細胞と、他の部位または以前かかったがんのがん細胞とを比較し、形状や種類、遺伝子の状況等を確認します。

肺がんの転移の種類

がん細胞の転移は、血行性転移、リンパ行性(こうせい)転移、播種性(はしゅせい)転移に分けられます。
血行性転移は、血液の流れに乗ってがん細胞が移動し、転移を起こすことです。
リンパ行性転移は、リンパが集まるリンパ節という部位にがんが転移し、そこからリンパの流れに乗って他のリンパ節へとがん細胞が広がることです。
播種性転移とは、胸部の空間(胸腔)や腹部の空間(腹腔)にがん細胞がばらまかれるように広がることです。

肺には多くの血管とリンパ管が集まっているので、肺がんは血行性、リンパ行性に転移しやすく、特に同側や反対側の肺、脳、骨、肝臓、副腎、リンパ節等への転移の頻度が高いです。
特定の臓器にのみ転移がみられ、がんの個数が数個以内の場合は「オリゴ転移」と呼ばれています。

転移の見つけ方と治療

肺がんの遠隔転移を発見するためには、CT検査、MRI検査、PET検査等をおこないます。
転移したがんが小さいうちは、症状がないことがほとんどです(無症候性転移)。

原発巣から離れた部位への転移(遠隔転移)を起こした肺がんは、Ⅳ期(ステージ4)と判定されます。Ⅳ期(ステージ4)の肺がんは、すべての病巣を手術で取り除くことが難しいため、治療方法は薬物療法や放射線治療が主体となります。
なお、Ⅳ期の非小細胞肺がんの患者さんのオリゴ転移に対しては抗がん剤による薬物療法をおこない、病勢が安定すれば転移したがんを手術で切除したり、放射線治療等の局所治療を追加することがあります。

骨転移は、肺がん患者さんの約3〜5割で起こることが知られています。骨転移の治療方法は、痛みや骨折の危険性、脊髄に骨転移があって麻痺等の症状があるときには放射線治療をおこなうようすすめられています。また、骨転移による痛みをやわらげ、骨折の危険性を低下させるための薬物療法をおこなう可能性があります。

脳転移の治療方法は、症状がみられる場合は放射線治療が中心となります。がんの数や大きさに応じて、放射線を集中的にあてる定位放射線照射か、脳全体にあてる全脳照射かを使い分けます。脳転移による症状があり、転移の数が1個だけのときには、外科手術がおこなわれることもあります。患者さんの状態によってはステロイド製剤による薬物療法がおこなわれることもあります。症状がない場合、分子標的薬や抗がん剤等を用いた薬物療法も選択肢となります。

参考:
・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2024年版, 金原出版株式会社
・日本肺癌学会編:患者さんと家族のための肺がんガイドブック2024年版, 金原出版株式会社
・後藤 悌:肺癌. 2016; 56, 945-947.

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 教授 笠原寿郎先生