小細胞肺がんとは

小細胞肺がんの概要

小細胞肺がんは、主に4つのタイプに分けられる肺がんの中では3番目に多いものです。

肺がん全体の10~15%を占め、タバコとの関連が強いがんであることがわかっています。
小細胞肺がんは進行が速いため、手術ができる早期のうちに見つかることが少なく、薬物療法や放射線治療を中心とした治療が主となり、手術がおこなわれることはまれです。そのため、他のがんのようなI期~Ⅳ期という病期分類(ステージ)はあまり使われません。

限局型と進展型の違い

がんの広がりによって限局型と進展型に分類され、それぞれに適した治療方法が選択されます。

限局型

<状態>
がんが放射線治療の可能な範囲にとどまっている状態をいいます。

  • ・がんが原発巣(最初にがんができたところ)と同じ側の肺にとどまっており、胸腔や心臓に「悪性胸水」「悪性心嚢水」と呼ばれる体液がみられない場合。
  • ・同じ側のリンパ節転移(鎖骨上、縦隔、肺門リンパ節)と、反対側の縦隔リンパ節への転移がみられる場合も含む。
限局型小細胞肺がんの病変の範囲

限局型小細胞肺がんの病変の範囲

進展型

<状態>
放射線を照射できる範囲を越えてがんが広がっている状態をいいます。

  • ・肺以外の臓器に転移している場合
  • ・原発巣以外の肺に転移している場合
  • ・悪性胸水、悪性心嚢水がたまっている場合
  • ・原発巣と反対側の肺門リンパ節に転移している場合
進展型小細胞肺がんの病変の範囲

進展型小細胞肺がんの病変の範囲

小細胞肺がんの症状

肺がんは特有の症状は現れにくいものですが、がんが進行するに伴い、胸痛、咳、痰等の一般的な呼吸器疾患でもみられる症状が現れます。
小細胞肺がんは増殖が極めて速いため、頭痛や骨の痛み等の転移による症状もみられます。非小細胞肺がんと比較して診断時には何かしらの症状を有していることが多いとされます。
また、小細胞肺がんはホルモンを分泌するがんであるため、特有の症状(腫瘍随伴症候群)を起こす場合があり、それが肺がん診断のきっかけになる場合もあります。この症状を経験する患者さんは肺がん患者さんの10~20%程度ですが、小細胞肺がんで起こりやすいものです。

【小細胞肺がんでみられる腫瘍随伴症候群の例】

種類 主な症状
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 けいれん、意識の低下、頭痛、吐き気、嘔吐、食欲不振など
クッシング症候群 肥満、ムーンフェイス(満月様顔貌)、皮膚が黒くなる、血圧上昇、血糖値上昇など
ランバート・イートン症候群 筋力低下、自律神経異常など

小細胞肺がんの治療

小細胞肺がんの治療は「限局型」か「進展型」かによって異なります。基本的には薬物療法と放射線治療が中心で、限局型のごく早期の場合は、手術も選択されることがあります。

限局型小細胞肺がんの治療

●「化学放射線療法」が推奨される

限局型小細胞肺がんでは、抗がん剤治療(化学療法)と放射線治療を併用する「化学放射線療法」が標準治療です。
白金(プラチナ)製剤とその他の抗がん剤を組み合わせた薬物療法をおこないながら、並行して放射線治療をおこないます。
患者さんの体力に問題がなければ、薬物療法と放射線治療を同時に開始する「同時化学放射線療法」が効果的です。
標準的な治療法は平日に1日2回、3週間にわたって計30回、45Gyの照射をおこなう「加速過分割照射法」です。その実施が難しい場合には、1日1回の照射を5~7週間にわたっておこなう「通常分割照射法」(50~70Gy)が選択されます。
化学放射線療法により、80~90%の患者さんのがんが縮小し、約半数でがんが完全に消失します。

●再発予防のための治療

しかし、限局型小細胞肺がんは再発率が高く、2年以内に60%の患者さんで再発することが報告されています。
そこで、化学放射線療法でがんが消失したり、進行が止まったと判断されても、再発予防のための治療が必要です。
特に脳は小細胞肺がんが転移しやすく、再発しやすい上、抗がん剤の効果が届きにくい臓器です。そのため、予め脳全体に放射線を照射する「予防的全脳照射」がおこなわれています。
その他に全身への転移・再発を防ぐ治療法として、2025年からは化学放射線療法後の患者さんに、免疫チェックポイント阻害薬での維持治療が選択できるようになりました。

●手術がおこなわれる場合

ごく早期の場合、まず手術ですべてのがんを取りきってから、追加の治療として白金(プラチナ)製剤を中心とした複数の抗がん剤を組み合わせる薬物療法(プラチナ併用療法)がおこなわれることもあります。

進展型小細胞肺がんの治療

  • ・薬物療法が中心で、抗がん剤治療が中心となります。免疫チェックポイント阻害薬と併用することもあります。使用する薬剤は患者さんの体の状態によって異なります。
  • ・がんそのものの治療ではなく、がんによる痛みなどの症状をやわらげることを目的に放射線治療(緩和的放射線治療)がおこなわれることもあります。

肺がんはこうして治療する

参考:
・国立がん研究センターがん情報サービス
・渡辺 俊一ほか:国立がん研究センターの肺がんの本. 2018, 小学館
・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2024年版, 金原出版株式会社
・日本肺癌学会編:患者さんと家族のための肺がんガイドブック2024年版, 金原出版株式会社
・清水 英治ほか:日内会誌. 1999;88(11), 2252-2259

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 教授 笠原寿郎先生