高齢者の肺がん治療

高齢者の定義

何歳からを高齢者とするかについてはいろいろな考え方がありますが、日本の「高齢者の医療の確保に関する法律」では65〜74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者としています。このため、一般的には65歳以上を高齢者と呼ぶことが多いでしょう。

しかし、現在の高齢者は、10〜20年前に比べると心身の健康状態が明らかに良く、65歳以上でも元気な方がたくさんいらっしゃいます。このため、日本老年医学会と日本老年学会では、65〜74歳を准高齢者、75〜89歳を高齢者、90歳以上を超高齢者と定義してはどうかと提案しています。

なお、肺がんでは、新たに肺がんと診断された患者さんの約8割が65歳以上、約5割が75歳以上と、高齢の患者さんが大半を占めています(国立がん研究センターがん対策情報センター、年齢階級別肺癌罹患数全国推計値 2013年)。

がんの進行に対する年齢の影響は一概にはいえず、患者さんの体力やその他の病気の有無、肺がんの組織型等によりさまざまです。高齢者だからがんの進行速度が速い、あるいは遅いといったことは明らかにはなっていません。

治療方法

日本肺癌学会が作成している「肺癌診療ガイドライン2023年版」では、75歳以上を高齢者としており、必要に応じて75歳未満の患者さんとは別の治療方法を提案しています。

手術をすべきかどうかを決める際、年齢だけを理由に判断することはありません。一般的に、年齢を重ねると心臓や肺の機能は低下していきますが、検査で問題がなければ手術も選択されます。放射線治療も同様で、年齢だけで放射線治療を行うかどうかを決めることはありません。

高齢になると、がん以外の病気にかかっていることが多く、薬物療法はそのような合併症を悪化させることがあります。また、副作用に耐えられるほどの体力がないこともあります。そこで、「肺癌診療ガイドライン2021年版」によれば、ドライバー遺伝子変異陰性の非小細胞肺がんに対する標準的な薬物療法は2種類の抗がん剤(免疫チェックポイント阻害薬を加えることもあります)でおこなわれますが、75歳を境に異なる薬剤が選択されます。ただし、年齢のみで薬物療法をおこなうかどうかを決めることはありません。

現在では、以前より副作用の少ない薬剤が開発され、副作用をやわらげる治療方法も進歩してきたことから、全身状態が良く、合併症の問題がない、心身ともに元気な高齢患者さんに対しては薬物療法を行うことが増えると予想されています。その一方で、身体の負担を考えて、積極的な薬物療法よりも副作用の少ない治療を選ぶ、あるいは治療しないという考え方もあります。どのような治療方法を選ぶかは、治療に何を望むのか、どのような生活を望むのかをご家族や医師とよく話し合った上で決めましょう。

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 臨床教授 笠原寿郎先生