高齢者の肺がん治療
高齢者の定義
日本の高齢社会の進展を反映して、肺がんの患者さんも高齢化が進んでいます。肺がん患者さんの年齢のピークは70代であり、2020年現在、新たに肺がんと診断された患者さんの86%が65歳以上、52%が75歳以上と、高齢の患者さんが大半を占めています(国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)2020年)。
肺がんの治療薬を開発するための治験にも、75歳以上の方が参加することが増えています。
そこで、日本肺癌学会の「肺癌診療ガイドライン」でも、75歳以上を「高齢者」と定義して治療法を検討しています。
ただし、がんの進行に対する年齢の影響は一概にはいえません。高齢者だからがんの進行速度が速い、あるいは遅いといったことは明らかにはなっていません。したがって、75歳よりも上だから/下だからというだけで治療法が決まるわけではなく、患者さんの体力やその他の病気の有無、肺がんの組織型、ご本人の希望等によりさまざまな選択肢があります。体調をはじめ、治療に何を望むのか、どのような生活を望むのかをご家族や医師とよく話し合った上で決めることが大切です。
高齢者のがんの治療
手術をすべきかどうかを決める際、年齢だけを理由に判断することはありません。一般的に、年齢を重ねると心臓や肺の機能は低下していきますが、検査で問題がなければ手術も選択されます。放射線治療も同様で、年齢だけで放射線治療をおこなうかどうかを決めることはありません。
薬物療法についても同様です。現在では、以前より副作用の少ない薬剤が開発され、副作用をやわらげる治療方法も進歩してきたことから、全身状態がよく、合併症の問題がない、心身ともに元気な高齢患者さんに対しては薬物療法をおこなうことが増えてきています。「肺癌診療ガイドライン2024年版」において、非小細胞肺がんの薬物療法については、75歳以上の患者さんにも白金(プラチナ)製剤を用いた抗がん剤治療(プラチナ併用療法)の安全性、有効性が確認されていることが記されています。
ただし、まだ高齢者への使用について現在のところ十分なデータが得られていない薬剤もあります。また一般に、高齢になるとがん以外の病気にかかっていることが多く、薬物療法はそのような合併症を悪化させることがあります。副作用に耐えられるほどの体力がないこともあります。
そこで、身体の負担を考えて、積極的な薬物療法よりも副作用の少ない治療を選ぶ、あるいは治療しないという考え方もあります。年齢だけで薬物療法をする、しないと決めることはありませんが、体調はもちろん、治療に何を望むのか、どのような生活を望むのかをご家族や医師とよく話し合った上で決めましょう。
監修:日本医科大学 呼吸器・腫瘍内科学分野
教授 笠原寿郎先生
2018年12月掲載/2025年6月更新