症状

肺がんでみられる全身症状:発熱、食欲減退、体重減少

がんでみられる体重減少

肺がんに限らず、がんになると痩せる(体重が減少する)ことが多くあります。
ただし、原因はさまざまですので、原因がわからないときやつらいときは、医師や看護師さんに相談しましょう。

がんになると、自然の反応として全身に激しい炎症が起きます。また、がん細胞は炎症をさらに加速させる物質を放出しています。その結果、体内のタンパク質と脂肪の代謝バランスが崩れ、脂肪だけでなく筋肉も減っていき、体重が減少すると考えられています。この状態を「がん悪液質」と呼びます。

体重減少のもうひとつの原因である食事量の減少には、大きくなったがんが消化管を圧迫しているために食事がとれない、食事をとっても十分に消化されない、薬物治療や放射線治療の副作用(吐き気、嘔吐、食欲低下、味覚障害、口内炎など)により食事がとれない、がんによる痛みが原因で食欲がない、心理的なショックで食事ができないなどの理由があります。これらが原因で体重が減少しているときは、食事の工夫や副作用の治療、痛みの治療、点滴による栄養状態の改善、カウンセリングなどによって体重減少を和らげることができます。

肺がん患者の痩せ方の特徴とタイミング

体重減少が起こる頻度はがんの種類によって違っており、化学療法をまだ受けたことのない進行肺がんの患者さんの約60%で体重減少がみられるといわれています。また病期が進むと、その割合は上昇していき、約90%に達すると報告されています。

悪液質になると、いつもどおりに食事をとっていても、脂肪だけでなく、筋肉も落ちていき、体力が著しく低下します。がん悪液質は2011年にEPCRC(European Care Research Collaborative)のガイドラインの中で「通常の栄養 サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無にかかわらず)を特徴とする多因子性の症候群」と定義されており、栄養状態を改善するだけでは、体重減少を止めることはできません。

肺がん患者の痩せ方の特徴とタイミング

肺がん治癒には痩せないことが必要

体重が減少すると、治療に耐える体力がなくなって治療を継続できなかったり、その結果として治療効果が思うよに得られなかったりします。また、筋肉が減りすぎると日常生活に支障をきたし、生活の質(QOL)が低下することもあります。食事がとれずに体重が減少しているのであれば、食事がとれない原因となっている痛みや副作用などに応じた対策をとることが大切だと考えられます。原因がわからないときやつらいときには、医師や看護師さんに相談しましょう。

腫瘍随伴症候群~がんが原因で起こるさまざまな症状~

腫瘍随伴症候群とは

がん細胞から分泌される物質の影響や、がんを退治する免疫の働きが他の組織にダメージを与えることで生じるさまざまな症状のことです(下表)。
肺がんは、他の種類のがんに比べて腫瘍随伴症候群が出やすいとされていますが、症状を経験する患者さんは多くても20%程度といわれています1)
がんと診断される前から随伴症候群がみられることもありますが、以下に紹介する症状だけでがんを心配する必要はありません。 ただし、肺がんを心配する要因があり、さらに以下の症状がある場合は、診察を受けましょう。

  • 1)肺癌と腫瘍随伴症候群. 日内会誌. 88(11), 2252-2259, 1999

発熱や体重減少、肺がんでは顔が丸くなることも

全身症状として発熱、食欲減退や体重減少、皮膚症状としてかゆみなどがよくみられる症状です。肺がんで比較的多い腫瘍随伴症候群には、肥満、ムーンフェイス(顔が丸くなる)、食欲不振、神経症状、意識障害などがあります。
以下の表に主な症状をまとめました。

全身 発熱、寝汗、食欲減退、体重減少
皮膚 かゆみ、顔面紅潮
神経 筋力低下、感覚喪失、めまい、視覚の変化
血液 貧血、血小板や白血球の増加
内分泌 高血糖、浮腫、筋力低下、高血圧、下痢
その他 多発性筋炎、関節の痛み

症状の程度や種類によって必要があれば、がん治療とは別に腫瘍随伴症候群の治療を行います。また、抗がん剤(がん治療を進めること)によって腫瘍随伴症候群が改善することもあります。

気になる症状がある場合は主治医に相談を

腫瘍随伴症候群には表に示したほかにも多種多様な症状が知られています。発生頻度は少ないですが、だからこそ何か気になる症状がある場合には主治医に相談してください。症状は軽くても、がんの治療に影響することがありますし、主治医と別の科の医師の診療が必要なこともあります。がん治療に伴う副作用と紛らわしいこともあり、腫瘍随伴症候群は見落とされがちになります。早めの相談が大切です。

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 臨床教授 笠原寿郎先生