検査法

確定診断のためのさまざまな検査

肺がんの最終判定のための組織診と細胞診

X線写真、CT(この他アイソトープ、MRIその他をまとめて画像診断といいます)など体の外側から得る情報のほかに、組織を採取し検討をおこなう組織診断という方法があります。
検査・手術でとってきた組織を顕微鏡で見て、細胞の大きさ、形、並び方などで総合的に判定します。「がん」という確実な診断(確定診断といいます)のためには組織診断が必要です。

もちろん一部の例外はありますし、確定診断を行う余裕のない緊急状態の場合や大きな負担なしには確定診断ができないといった場合などでは画像診断のみで治療を開始することはあります。しかしその場合でも確定診断を得ようとする努力は続けられるのが普通です。

組織診と細胞診

組織診

出典:「臨床・病理 肺癌取扱い規約」 2016年12月改訂
第8版 金原出版株式会社 日本肺癌学会 編

肺がんの最終的な判定を行う方法は組織診と細胞診の2種類があります。組織診は検査、あるいは手術でとってきた組織の切れ端をホルマリンで固定し、薄くきった後H-E染色(ヘマトキシリンとエオシンという色素を使うのでこの名前がついています。)して顕微鏡で見ます。細胞の大きさ、形、並び方などを総合的に判定します。別の特殊な染色を使って特定の性質を判断することもあります。

細胞診は、剥がれてきた(喀痰細胞診)あるいは剥がしてきた(擦過細胞診)もしくは針を刺して吸引してきた(吸引細胞診)細胞をアルコール固定し、パパニコロー染色という方法で染めて顕微鏡で見ます。細胞の並び方を判断することは困難で、主として細胞の大きさ、形から判断します。

肺という組織は気管支が次々と枝分かれしてできている組織であることと、肋骨に囲まれていてがんの一部を取ってくるのが簡単ではない臓器です。その代わり、がん細胞が剥がれ落ちると痰に混じることがあるという特徴もあります。

痰に混じったがん細胞を見つけ出す:喀痰細胞診

喀痰細胞診

喀痰細胞診

出典:「臨床・病理 肺癌取扱い規約」2017年1月改訂
第8版 金原出版株式会社 日本肺癌学会 編

喀痰とは吐き出した痰のことです。吐き出した痰の中に剥がれ落ちた肺の組織が混ざることがあります。その肺の組織を利用した診断方法です。人間の目で喀痰中のがん細胞の有無をチェックします。検査は専門のスクリーナーという技師がおこないます。

検査の手順は、できるだけ早朝の喀痰を容器に入れ、乾かないようにして提出するだけです。患者さんにとって苦痛のない簡単な検査ですが、肺がんがあれば必ず痰にがん細胞が混じっているとは限らず、喀痰細胞診の結果が正常であったからといって肺がんがないという証拠にはなりません。

そのため喀痰細胞診は何回か繰り返し行うことで、がんがあった場合の診断精度が高まるとされており、通常3回は行って喀痰中のがん細胞の有無を調べることになっています。
医療施設から遠方にお住まいの人、忙しい人などに自宅で3日間痰をためてもらう方法もありますが、どうしても細胞が変性してしまうため、少し見にくい標本になってしまうようです。

細胞診検査では、検体(この場合痰のことです)をスライドグラスの上で伸ばしてアルコールで固定し、染色して顕微鏡で細胞を観察します。がん細胞があると疑われる場合には、スクリーナーとは別に医師が確認するという手順を踏みますので、結果が出るまでは数日かかります。

気管支鏡で病巣の細胞をとる:擦過細胞診

がん細胞の採取方法には直接細胞を採る方法もあります。擦過(さっか)細胞診とは、文字通り細胞を擦ってとってきてその細胞を観察する検査です。気管支鏡で気管支をのぞきながら病巣部位から細胞をとります。その細胞を直接スライドグラスにこすりつけてすぐにアルコールにつけて固定して標本を作ります。

病巣が気管支鏡で見えていればほとんどの場合診断がつきますが、気管支鏡で見える範囲よりも遠く(末梢)に病巣があることも多く、この場合はX線透視下に気管支鏡を行い、X線画像を見ながら病巣にブラシを誘導して擦ります。

ブラシのほかにキュレットと呼ばれる小さな匙(さじ)を使うこともあります。また、たいていの場合は同時に生検標本も取るように努力します。

この場合問題はX線透視下の擦過細胞診、生検では病巣にあたらない場合が発生することです。X線は立体的な描写はできませんので確実性は少々低下します。

体外から針を刺して細胞をとる:穿刺細胞診

病巣が肺の末梢部分にあるために、気管支からチューブを通す気管支鏡検査では届きそうにないときに、体の外側から針を刺して、細胞をとる方法です。体の外側からでも手で触れられるリンパ節が腫れている場合にもおこなわれます。

リンパ節の場合はその表面を触れながら、表面の一部を局所麻酔して少し太い針でリンパ節に針を突き刺して吸引します。注射器の中身をスライドグラスに吹き付けて固定します。確実性も安全性も高い検査です。

肺末梢の病変の場合はそのままでは触れることができませんので、X線透視の上で確認しながら行います。これは経皮肺生検の項で詳しく説明します。標本作成方法はリンパ節穿刺と同じです。

肺がんと胸水

肺がんだけではないのですが、病変が胸膜(いわゆる肋膜)に進展すると2枚の胸膜の間に水がたまることがあり、これを胸水と呼びます。胸水は、肺がふくらんだり縮んだりするときに膜同士の摩擦をやわらげる役目をもっており、常に少量存在しています。しかし、肺がんや心不全などの病気になると胸水が過剰にたまる“胸水貯留”の状態となり、圧迫感や息切れ、呼吸困難などの症状があらわれます。

胸水には滲出性(しんしゅつせい)と漏出性(ろうしゅつせい)があり、過剰にたまってしまうメカニズムに違いがあります。
滲出性胸水は、胸膜に炎症が起き、血管から水分やタンパク質などが染み出しやすくなるために起こるもので、肺がんや肺炎などが原因です。胸水の色は淡い黄色から黄褐色、濁っているなどさまざまです。
漏出性胸水は、血管内の水圧上昇や血液中のタンパク質濃度が低下して浸透圧が下がるために起こるもので、心不全や肝硬変などが原因です。漏出性胸水の色は淡い黄色か透明です。

また、胸水に血がまざっていると血性胸水、膿がまざっていると膿性胸水です。

肺がんにおける胸水貯留は、肺がんが胸膜に広がったことを示すため、病期はIV期(ステージ4)と判定されます。

胸水の検査:胸水細胞診

胸水の原因が肺がんであれば、胸水の中にがん細胞が含まれていることが多いので、胸水を抜いて細胞診検査を行います。なお、がん細胞が含まれている胸水を悪性胸水と呼びます。

胸水の有無は胸部単純X線写真、横向きになって寝そべった形で撮った胸部単純正面X線写真、CT、超音波などで確認します。

排液の際には、超音波などの画像検査で胸水があると確認された位置の肋骨の間の皮膚に局所麻酔をして注射器あるいはポンプで胸水を抜きます。一般的に安全性は高く、苦痛も少ない検査です。ただし、肺がんが強く疑われている場合であっても、抜いた胸水のなかにがん細胞が見つからないこともあります。そのような場合、医師はがん細胞が一度見つからなかっただけでは「肺がんではない」と判断せずに、再検査として胸水の採取を何度か繰り返すことがあります。

胸水の治療方法

胸水貯留により症状がみられるときには、針や管を使って胸水を抜く処置が行われます。

胸水穿刺は、超音波などの画像検査で胸水があると確認された場所に注射針を刺し、胸水を抜きます。
がん性胸膜炎の場合、一度胸水を抜いても、またすぐにたまってしまうことが多いため、管(ドレーン)を胸に差し込んで、持続的に胸水を体外に出す胸水ドレナージという治療が行われます。胸水を抜いた後は、ふたたび胸水がたまらないよう、肺側の膜と胸壁側の膜を薬剤によってくっつける胸膜癒着術が行われることもあります。

胸水穿刺は一時的な処置ですが、胸水ドレナージは長期にわたることがあります。

皮膚の上から針を刺して細胞をとる:経皮肺生検

経皮肺生検では、皮膚の上から細い針を刺し、肺の中にある病巣から検体を採取します。採取した検体は病理・細胞診にまわして診断をつけます。
近年はCT画像を見ながら(CTガイド下で)行われるようになりました。

病巣のある部位の皮膚を消毒し、皮膚・筋肉・胸膜に局所麻酔をかけてから、太さ約1mmの針を皮膚の上から刺し、病巣まで進めます。針が病巣に到達したら、そのまま注射器で吸引するか、針にセットされたカッターで病巣の一部を切り取ります。これを2〜3回繰り返し、針を刺した部分を消毒し、異常がないかどうかを確認して終了します。 全体で15分ほどの検査です。

経皮肺生検は、いくつかの危険性があります。肺はやわらかいスポンジが詰まった風船のような臓器です。それを針で刺すので穴があいて空気が漏れ、肺がしぼんでしまうことがあります(気胸といいます)。たまに、漏れた空気が皮膚の下に溜まることもあります(皮下気腫といいます)。また、肺にはたくさんの血管が通っているのでその血管に針があたって出血することがあります。その他には、麻酔薬のアレルギー、胸膜を刺したときに反射で起きるショックなどが考えられます。

こうした合併症のうち多いのは気胸で、程度の軽いものも含めると、たいていの場合に起こっていると考えられます。症状は肩のほうに抜ける感じの痛みと呼吸困難です。呼吸困難は気胸の程度によって症状の強さが異なり、症状が強い場合は入院が必要になることもあります。通常は24時間程度で症状は落ち着き、1週間程度で多くの場合は回復しますが、まれにチューブで肺の中に漏れた空気を抜く処置が必要になることもあります。皮下気腫は何もしないでも回復することがほとんどです。

出血は一般に大量になることはなく、数時間の安静で落ち着きますが、心臓の病気で血液を固まりにくくする薬を飲んでいる方の場合は注意が必要です。

経皮肺生検

経皮肺生検

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 臨床教授 笠原寿郎先生