病期の決定(TNM分類)

肺がんの病期:ステージ1~ステージ4

これまでの検査で原発巣の状態や遠隔転移を確認して、T、N、Mそれぞれが決まります。
それらの組み合わせにより病期が判断されます。
少し細かくなりますが、下に分類表を示します。

肺癌の病期分類(TNM分類)

病期 T N M
潜伏癌 TX N0 M0
0期 Tis N0 M0
IA期 T1 N0 M0

IA1期

T1mi、T1a N0 M0

IA2期

T1b N0 M0

IA3期

T1c N0 M0
IB期 T2a N0 M0
IIA期 T2b N0 M0
IIB期 T1a〜T2b N1 M0
T3 N0 M0
IIIA期 T1a〜T2b N2 M0
T3 N1 M0
T4 N0、N1 M0
IIIB期 T1a〜T2b N3 M0
T3、T4 N2 M0
IIIC期 T3、T4 N3 M0
IV期 Any T Any N M1

IVA期

Any T Any N M1a、M1b

IVB期

Any T Any N M1c
  • ※ⅠA期はさらにⅠA1期、ⅠA2期、ⅠA3期に、Ⅳ期はさらにⅣA期、ⅣB期に分類されます。
    肺癌取扱い規約 第8版 2017年1月 日本肺癌学会編 P6〜7.

IA・IB期(ステージ1):ごく早期の肺がん

IA,IB期

IA,IB期

かなり早期の肺がんです。
治療法としては、手術を受けられる体力があることを前提に非小細胞がんであれば手術を第一に考えます。
小細胞がんであれば、抗がん剤の併用を前提に手術が考慮されます。
ここで体力というのは筋肉の力ではなく、呼吸機能、肝臓、腎臓の機能、心臓の機能などが手術に耐えられるかどうかをいいます。

IIA・IIB期(ステージ2):早期でもやや進行している

IIA,IIB期

IIA,IIB期

IA,IB期と同じくかなり早期に分類されます。したがって、治療の選択方針はIA,IB期と同じです。
しかし、進展度はIA, IB期より高い(T1a〜T3)か、原発巣と同じ側の肺門部へのリンパ節の転移が認められる(N1)場合がありますので、手術による治癒率は低くなり、場合により術後に化学療法や放射線治療を行います。

IIIA期(ステージ3):局所進行がんの初期

IIIA期

IIIA期

TNM分類でⅢA期と分類された肺がんは、転移はないものの、肺局所で進行している進行がんの初期段階です。
局所進展型あるいは局所進行肺がんといわれることもあります。
図は、原発巣と同じ側の縦隔リンパ節に転移がある例です(N2)。
非小細胞がんであれば基本的に手術を行いますが、術後の再発率は高く、治療法の改善努力が注がれています。手術前や後に抗がん剤を使う、放射線治療も組み合わせるなど、色々な方法が検討されていますが、決定的な方法は確立されていません。
手術が不可能と判断された場合は、手術を行わずに抗がん剤と放射線治療を併用する化学放射線療法での治療を行います。
また、化学放射線療法後には免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法が行われることがあります。
小細胞がんの場合は抗がん剤と放射線治療の併用を考慮します。

IIIB・IIIC期(ステージ3):局所進行がん

IIIB期

IIIB期

IIIC期

  • IIIC期

  • IIIC期

TNM分類でⅢB・ⅢC期と分類された肺がんは、ⅢA期よりさらに進行した状態の局所進行がんとされています。原発巣側の肺外にリンパ節転移が生じています(N2またはN3)。手術ですべてを取り切ることは難しく、手術をしてもがんが残ってしまう可能性が高いことから、基本的に手術はおこないません。
標準的な治療法としては、化学療法、放射線治療の併用が行われます。その後、免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法が行われることもあります。
小細胞肺がんでは化学療法と放射線治療の併用が検討されます。

IV期(ステージ4)の肺がん:転移性肺がん

IV期(ステージ4)の肺がんとは

IV期(ステージ4)の肺がんとは

TNM分類でⅣ期と分類された肺がんは転移性がんとされています。
転移の中でも、肺から離れた臓器(肝臓、脳、骨など)や原発巣とは反対側の肺、胸膜や心膜に転移したもの(遠隔転移)があればIV期(ステージ4)と判定されます。組織型(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がん)やリンパ節転移の有無、原発のがんの大きさは問いません。

胸水(肺と胸壁の間にたまった水)や心嚢水(心膜と心臓の間にたまった水)の中にがん細胞がある場合もIV期(ステージ4)です。

IV期(ステージ4)の肺がん患者さんの5年相対生存率は他のステージと比べ低くなります。
5年相対生存率とは、なんらかの治療を受けた患者さんのうち5年後に生存している人の割合と、日本人全体で同じ性別・年齢の人のうち5年後に生存している人の割合を比べたものです。

IV期(ステージ4)といっても、症状があまりない場合は、治療を続けながらこれまでと同じように過ごすことができる患者さんもいらっしゃいます。

IV期(ステージ4)の肺がんの治療

IV期(ステージ4)の肺がんは、多くの場合、手術は難しいため、治療方法は薬物療法が中心です。

肺がんの薬物療法には、化学療法(抗がん剤)、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、化学療法(抗がん剤)+免疫チェックポイント阻害薬併用などが使用されます。どの薬物を使用するかは、患者さんの希望や全身状態、組織型、肺がんの原因となった遺伝子変異、免疫の状態、などによって決めます。

以前は、年齢によって化学療法を行うかどうか判断していましたが、高齢でも元気で体力があり、合併症のない患者さんは化学療法を行うことでメリットがあることがわかっています。このため、現在は、患者さんの体力や合併症の有無などによって化学療法を行うかどうかを決めるようになっています。ただし、高齢の患者さんでは、比較的副作用の軽いお薬を使用したり、お薬の数を減らしたりすることもあります。

症状を軽くするために放射線治療を行うこともあります。例えば、骨に転移があって痛みが強い場合や、脳に転移があって痙攣を起こしたりするような場合です。
脳転移に対する放射線治療には、脳全体に照射する全脳照射と、がん細胞のある部位にピンポイントに照射する定位放射線照射があります。どの放射線治療を行うかは、転移のある部位や患者さんの状態によって決まります。

大量の胸水がたまっているときはそれに対する治療が主体になることもあります。

IV期(ステージ4)の肺がんに対する治療は、症状を軽くし、生存期間を延ばすことが目的となります。

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 臨床教授 笠原寿郎先生