分子標的療法

お薬がきかなくなる場合と、その後の治療

分子標的薬による治療で、がんが縮小したり、増え続けること(増殖)が抑えられた場合でも、治療を続けていくと、やがてその分子標的薬の効果が減弱してしまいます。これはがんがその分子標的薬に対する耐性を獲得するためです。細胞増殖を促進する信号の増強や変化が起こり、その標的分子が発信する増殖信号を止めることができなくなったり、他の信号が強まって、がん細胞が増殖することが原因です。

EGFR-TKIへの耐性

たとえばEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんでは、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)による治療が第一選択となります。しかし、EGFR-TKIによる治療で、がんが縮小したり、増殖が抑えられた場合でも、治療を続けていくと、やがてEGFR-TKIの効果が減弱してしまいます。これはがんがEGFR-TKIに対する耐性を獲得するためです。

がん細胞がEGFR-TKIに耐性を獲得する原因には、EGFR遺伝子のT790M変異、c-MET増幅、HER2増幅などがあり、頻度はT790M変異が50〜60%、c-MET増幅が15〜20%、HER2増幅が20〜25%です。1)細胞増殖を促進する信号の増強や変化が起こり、EGFR-TKIではEGFRが発する増殖信号を止めることができなくなったり、EGFRからの信号は止めることができても他の信号が強まって、がん細胞が増殖してしまったりします。他には、がんのタイプが非小細胞がんから小細胞がんへ変化してEGFR-TKIが効かなくなってしまうこともあります。

  • 1)Cortot, AB., et al.: Eur. Respir. Rev., 23(133), 356, 2014

耐性ができた後に使われるお薬

がん細胞の表面に発現しているEGFR(上皮成長因子受容体)と呼ばれるタンパク質からの信号が細胞内に伝わるとがん細胞が増え続け(増殖)ます。この信号の伝達を止め、がん細胞の増殖を抑える薬剤がEGFR-TKIです。

EGFR遺伝子変異が認められた非小細胞肺がんに対して、EGFR-TKIによる治療をしていると、いったんは効果が得られても、いずれEGFR-TKIが効きにくくなってしまうこと(耐性)があります。耐性となる遺伝子変異としてT790Mというのが知られています。この変異が生じるとEGFRの構造が変化して、第一・第二世代のEGFR-TKIはEGFRに結合できず、EGFRが発信する信号を止めることができなくなってしまいます。

T790変異が認められた場合には、T790変異があってもEGFRに結合して、EGFRが発信する信号を止めることができる第三世代のEGFR-TKIによって治療をおこないます。

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 臨床教授 笠原寿郎先生