TRK阻害薬の働く仕組み

がんと遺伝子変異

がんは、普通の細胞の遺伝子が傷つくことで発生する、異常な細胞のかたまりです。
傷のついた遺伝子(がん遺伝子)は本来の正しい機能を果たせなくなります。異常な機能を持つタンパク質をつくりだして勝手に細胞を増殖させたり(がん遺伝子の活性化)、逆に細胞増殖を止めるためのブレーキがかからなくなったり(がん抑制遺伝子の不活化)して、がん細胞を増殖させます。

がん細胞を増殖させる「NTRK融合遺伝子」

がんに見られる遺伝子変異のひとつに、NTRK(神経栄養因子受容体チロシンキナーゼ)遺伝子融合変異があります。遺伝子融合とは、がん細胞の中で遺伝子が他の遺伝子と結合し、変異することをいいます。
NTRK遺伝子がつくりだすタンパクが TRK(トロポミオシン受容体キナーゼ)です。TRKは本来、神経の成長や維持に重要な役割を果たすタンパクですが、NTRK融合遺伝子からつくられると機能に異常が生じて、がん細胞が増殖するためのシグナルが出続ける状態となり、がん細胞を増殖させます。
ただし、この変異がみられる頻度は少なく、非小細胞肺がんの0.2~3.3%です。

NTRK遺伝子融合がある人に効果が期待できる「TRK阻害薬」

TRK阻害薬(TRK-TKI)は、NTRK融合遺伝子を持つがん細胞の TRKタンパク質の活性を抑えて、がん細胞の増殖を抑制することが期待されます。
肺癌診療ガイドライン(2023年版)では非小細胞肺がんのⅣ期の治療において、NTRK融合遺伝子陽性であれば TRK阻害薬の単剤療法をおこなうよう推奨しています。

  • ※治療の前に遺伝子検査を受け、NTRK融合遺伝子があるかどうかを確かめる必要があります。
  • ※2023年6月現在、NTRK融合遺伝子検査は、標準治療が終了した人を対象におこなわれる「がん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)」の1項目として実施されています。実施できる病院は限られていますので、病院のスタッフにお尋ねください。
NTRK遺伝子融合がある人に効果が期待できる「TRK阻害薬」
  • 参考:
  • ・Amatu A,et al.ESMO Open. 2016; 1: e000023.
  • ・野崎要ほか:杏林医会.2019; 50(4), 187-190.
  • ・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2023年版 ,金原出版株式会社

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 臨床教授 笠原寿郎先生