妊娠中に肺がんになる人は少ない?

肺がん患者さんの中で、妊娠中の女性は多くありません。しかし、近年は40歳代での出産が増加しているため、妊娠と肺がん治療が重なるという人も増える可能性があります。
妊娠中は健康診断でX線検査を避け、体調不良があっても悪阻(つわり)と考えてしまうため、がんを発症していた場合でも、その発見や診断が遅れてしまうことが懸念されます。妊娠中の女性患者さんにおいても、早期発見と早期治療は欠かせません。しかし、一般の女性患者さんとは異なり、妊娠中の方には実施できない検査や治療があります。これらについて、詳しく見ていきましょう。

がんの治療が胎児に与える影響

がん細胞は、自分の正常な細胞が突然変異をおこしたもので、細胞の秩序を無視して異常に増え続けるのが特徴です。そのため、がんの治療は、がん細胞が急激に増殖する特徴を利用して、よく増える細胞を攻撃するという戦略をとります。
女性の体内で妊娠が成立すると、1個の受精卵が急激な細胞分裂を繰り返してわずか9カ月ほどで成熟した胎児に育ちます。
そのため、盛んに増殖する細胞を狙うがん治療が、胎児を傷つけ、成長を妨げることが心配されるのです。胎児を守り育て、出産に備えて、血液や体液の量や成分・濃度、体温やホルモン分泌など大きく変化する妊婦の体にとっても、がん治療は大きな負担になります。

妊娠中に避けるべき検査

がんの検査では、X線(レントゲン)、CTがよく使われます。放射線が胎児の成長に悪い影響を与える可能性があるため、妊娠中はこれらの検査は避けるのが普通です。
しかし、がんの疑いがある場合は別です。肺がんの検査で必要なのは胸部のデータですから、胎児に放射線を当てずに検査することが可能です。妊娠初期を過ぎれば、X線やCT検査で照射される強さの放射線で胎児に影響が出る心配はありません。
MRIは放射線を使わず、磁力によって検査します。特に胎児には影響しないとの報告がありますが1)、造影剤を使用する場合は、造影剤によるリスクを考慮する必要があります。
また、シンチグラフィやPET検査は検査薬剤として放射性同位元素(放射線を放出する物質)を静脈注射するため慎重な検討が必要です。

1)日本小児放射線学会 「妊娠中のMRI検査の胎児期、幼年期への影響」論文の紹介

妊娠中のがん治療

非小細胞肺がんのⅠ~Ⅱ期(ステージ1~2)など手術が検討される場合は、手術時の麻酔薬の影響が少ない時期を選ぶことで、妊娠中であっても手術が可能と考えられます。術後補助化学療法(抗がん剤治療)は、出産を終えてから行います。
また、頻度は少ないですが、妊娠中の肺がんで手術ができない場合に選択されるのは、放射線療法です。胸部への局所的な照射で胎児に影響を与える可能性は低いと考えられています。
化学療法(抗がん剤治療)は全身に作用するので胎児へのリスクが予想されますが、妊娠中に使える抗がん剤もあります。

予定帝王切開で早めの出産、妊娠中断など出産のタイミングと方法を相談して選択

上述したように妊娠中でも可能な治療法はありますが、制限されることもあります。
場合によっては、胎児がNICU(新生児集中治療室)で管理可能な体重まで成長するのを待って帝王切開による早期出産を試みることもあります。
また、がんの種類やステージによっては治療を優先するために妊娠中絶を選択しなくてはならないこともあります。
このように、妊娠中にがんと闘う場合、難しい選択が必要になる場面もありますが、現在では、がんを合併する妊婦さんが無事に出産に至ることが珍しくありません。
自分の状況を正しく医療者に伝え、納得のいくまで相談することが大切です。