講演2
人生会議「ACP」とは
近藤 まゆみ さん
北里大学病院 緩和ケアセンター がん看護専門看護師

人生会議は自分の希望を大切な人と共有するための話し合い

人生会議とは「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて、前もって考え、繰り返し話し合い、共有する取り組み」です。アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)とも呼ばれます。厚生労働省は数年前からこの人生会議を推奨・推進しており、11月30日を「人生会議の日」に制定しています。
人はだれでも例外なく人生の終わりを迎えます。ただ、命の危険が迫った状態になると、約70%の人が医療やケアなどを自分で決めたり望みを伝えたりすることができなくなるといわれています。そうならないように、自分が何を望んでいて、どんな医療やケアを受けたいのかを前もってしっかり考え、周囲の大切な人たちと話し合って共有しておくこと、それが人生会議です。

もしものときのために人生会議

人生会議の準備として病状と今後の見通しを知っておく必要がある

人生会議をおこなう前に、まず病状や予後も含め、自分自身に関する情報を知っておく必要があります。たとえば、病状の進行を自覚したとき、今まで受けていた治療を続けるのか、その段階でやめるのか、また、仕事を続けるのか、全面的に治療に向き合うためにやめるのかなどを選択しなければなりませんし、自分の状況を伴侶や両親にどのように伝えるのかも、決めておかねばなりません。そうした自己決定をしなければならないことはたくさんあり、それには自分の体や治療の状況、今後、生活がどのように変わっていくのかを知っておく必要があります。

それでは、それをだれにいつ聞けばよいのでしょうか。患者さんの病状をもっともわかっている、主治医の先生に聞くのが一番よいと思います。また、看護師さん、薬剤師さん、理学療法士さんなども、いろいろな補足や助言をしてくれるでしょう。説明を受けるタイミングとしては、治療の開始時、治療の効果があるとき、治療の効果が低下してきた時期、治療が終了する時期などがあります。そして説明を受けるときは患者さん本人だけでなく、ご家族やご親戚など、身近な大切な人たちも同席していただきたいと思います。様々な情報を共有しておけば、より充実した人生会議をおこなえるはずです。ただし、話の内容がご本人、ご家族にとってとてもつらいものであった場合は、その気持ちをそのまま話し手に伝えていただくことも大切です。私たち医療者はそうしたことにも十分に配慮しながら、治療を進めていきたいと思っています。

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会議の前に自分が大切にしている、こと・ものも確認しておく

次に自分が大切にしていることを確認しておく必要があります。これを価値の明確化といいます。たとえば、大事なものは家族かもしれませんし、友人、ペットなどいろいろ考えられます。また目に見えるものだけでなく、その人の生き方や生活スタイルかもしれません。もしすぐにわからなければ、自分がよく考えていることは何か、自分の話の中によく出てくる事柄は何か、私が好きなことは何か、といったことに近いかもしれません。あるいは、他の人から言われて初めて気づくこともあります。

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自分の気持ちが変わっても話し合いを続けることが大切

価値の明確化ができたら、だれにそのことを話すかを考えます。自分の信頼できる人、大事な人はだれかを考えるということです。そして、その信頼できる人や医療チームと話し合い、気持ちを共有します。心の状態や環境の変化によって、自分が大切にしていることもどうしたいかも変わっていく可能性はあるため、話し合いは繰り返しおこないます。また、自分の思いを実現するためには、ときには周囲の人の協力や理解が必要になるため、気持ちを共有することは大事なことです。もし気持ちが動揺して、自分で物事を決められなくなったときに、周囲の人たちが自分の思いを代弁してくれれば、自分が望まない方向に進まずにすみます。そのため、話し合いを繰り返し、自分の思いを伝えて周囲と共有していくこと、つまり人生会議がとても大切なのです。

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「もしバナゲーム」で自分の気持ちを見つめ直すことができる

自分の思いを伝えるよい方法の1つに「もしバナゲーム」と呼ばれるカードゲームがあります。これは、もしものときのことを話し合うために作成されたもので、カードには「人との温かいつながりがある」「家で最期を迎える」「機器につながれていない」「家族が私の死を覚悟している」など、様々なことが書かれています。カードは36枚あり、その中の1枚は自分独自の希望を書けるワイルド・カードになっています。カードの交換を繰り返し、最後に自分が一番大事だと思うカードを3枚手元に残します。ゲームを通じて、どのようなケアをしてほしいのか、だれにそばにいてほしいのか、自分にとって何が大切なのかといったことがわかります。それをみんなで見せ合いながら、なぜそれを自分が選んだのかを語り合います。昨年、がんサロンでこのゲームをおこなったとき、普段考えていなかったこと、普段口にしていなかったことを、そこで考えることができたと、多くの方がおっしゃっていました。自分自身を見つめ直すことができる、まさに人生会議につながるゲームだと思います。

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人生会議は急激な変化が起きる前に少しずつ進めておく

心疾患や肺疾患では急な悪化と持ち直しを何度も繰り返しながら、全体として少しずつ状態が悪くなっていく傾向があります。また認知症や老衰などは、全身の機能が長い時間をかけて、少しずつ穏やかに低下していきます。しかしがんの場合は、良好な機能が長く保たれ続け、最後の2カ月ぐらいで急速に低下することが多いといわれています。そこで、無理に急ぐ必要はありませんが、話し合いをおこなえる体や心の状態が十分に保たれているうちに、先行きを見据えながら、少しずつ人生会議を進めていくことも大切だと思います。

人生会議を通して生まれたつながりがみんなの癒しになる

人生会議は、患者さん本人の病気との向き合い方を、ご家族や周囲の大切な人、そしてわれわれ医療者と共有することが目的です。しかし、強制するものではなく、今は向き合いたくない、考えたくないと思われていれば、それを素直に伝えていただくことが大切です。われわれはそれに合わせて治療を進めていきます。また、普段から寡黙な方が、人生会議のときだけ能弁になるはずもないと思います。寡黙な方には、寡黙な方なりのコミュニケーションがあると思いますので、ご家族や周囲の方たちはご本人の普段の様子も念頭に置きながら、ゆっくり話を進めていただきたいと思います。さらに、病状が急変したときは、話し合いがなかなか進まないこともあります。患者さんの心や体がつらいときは、つらさのコントロールをしながら、話をつないでいく工夫も必要です。そういう意味でも、何気ない日常の会話はとても大事になると思います。

人生会議で繰り返し話し合いを続けていくことで、信頼関係がつくられていき、その信頼関係に基づくつながりが、患者さんやご家族、そして私たち医療者にとっても癒しになります。それは、その先何年も何十年もずっと残っていくものだと思いますので、ぜひそのきっかけとなる人生会議に取り組んでいただければと思っております。

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