帝京大学の渡邊先生に、肺がんと診断されたとき、治療する過程でどのようなことが大切かについて講演をしていただきました。

講演:帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 准教授 渡邊 清高先生
講演
帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 准教授
渡邊 清高先生

患者・家族・医療者のコミュニケーション “話し合いのヒントとコツ”を考える

がんという病気の今

今、日本では1年間に37万人ががんで亡くなっていて1)、86万人が新たにがんと診断されています2)。一方、診断と治療の進歩により、治療成績も向上してきています。胃がん・大腸がん・乳がんなどでは5年生存率が70%を超えるようになってきました。がんを患ったら闘病一辺倒というのではなく、自分らしい生活を維持して、仕事に打ち込んだり趣味を楽しんだりしながら治療に取り組むという視点も大切になってきているといえます。

患者が治療法を選択

治療の選択肢が増えたことで、患者さん自らが治療方法を選択する機会が増えてきました。そのためには、情報を集めていく必要がありますが、インターネットや書籍にはたくさんの情報が溢れ、どれが正しいか、自分に当てはまる情報はどのように得るべきか判断できなくて困っている患者さんも多いようです。
そこで、がんの情報について知り、正しく理解し、それをもとに行動していくためのコツをお話しします。

信頼できる情報の見分けかた

よく、「カリスマ医師が勧める〇〇療法!」、「芸能人の◎◎さんが効果を実感!」といったタイトルの情報を見かけます。有名人が勧める情報は正しいように思えますが、医療の情報について信頼性が高いといえるのは、何百人何千人の実際の患者さんを対象に行った臨床試験を経て、「効果がある」という検証がなされた治療法です。有名人や知人という個人の意見ではなく、国立がん研究センターなどの公的機関やがん診療連携拠点病院などからの情報を得るようにしましょう。
また良いことばかり書いてある情報も要注意です。効果だけでなく、副作用や費用などもきちんと伝えている情報のほうがバランスがよいといえます。
「完全消失!」「生還!」「奇跡の‥」などの刺激的なキャッチフレーズで飾られた情報も要注意です。つい目を引かれてしまいますが、冷静に見直してみましょう。わからなければ、担当の医師に相談してみることをお勧めします。

標準治療が最適。主治医に相談して

巷に溢れている様々な情報に惑わされがちですが、あなたの主治医が勧める標準治療が、あなたに適していて、効果的だと考えられます。サプリメントや民間療法に関心をもつ方は多くいらっしゃいますが、がんに対する治療効果が証明されたものはありません。まずはご自身の状態を一番よく知っている、主治医と相談していくことが大切です。

お勧めできる情報源

インターネットで情報を探すときは、がん診療連携拠点病院などの医療機関や自治体、製薬会社など、情報源を意識してみましょう。国立がん研究センターの「がん情報サービス」ではがん患者さんやご家族向けのがんに関する情報を得ることができます。がんに関する冊子や書籍も発行されています。また、各都道府県では拠点病院や公的な相談窓口、地元の患者会や患者支援団体の連絡先をまとめた冊子を製作しており、インターネットや冊子で入手できますので、これもうまく活用しましょう。大阪府には厚生労働省が指定しているがん診療連携拠点病院が17ヵ所あり、そのすべてにがん相談支援センターがあります。大阪府指定の拠点病院にも相談窓口が設置されています。電話やFAX、メールなどで相談でき、その病院にかかっていなくても利用することができます。がんといわれて不安なときや、情報探しのお手伝いが必要なときなどに、研修を受けた専門のがん相談員が対応しています。

医療者と良い関係をつくるコツ

医療者と話しやすい関係をつくっていくことが大切です。医師でも看護師でも、薬剤師でも、コミュニケーションの基本は同じです。まずは声に出してみて、対話を重ねて信頼関係を築きましょう。とはいえ、病気や治療についてわからないこともありますし、限られた診察の時間では話しにくかったり、緊張や不安もあったりするかもしれません。ご家族やご友人など、信頼できる人に同席してもらうと安心です。困ったことやわからないことがあれば遠慮なく伝えましょう。医療者も、患者さんから「わからない」「困っている」と言っていただけたほうが、患者さんやご家族の思いや願いを知るきっかけになります。聞きたいことをあらかじめメモにまとめておくと落ち着いて質問できます。そして、医師だけでなく、がん相談支援センターや、看護師、薬剤師、患者会などから情報を集めてみたり、相談したりするのもお勧めです。

信頼できるがんの情報を知り、正しく理解し、それをもとに行動していくことが大切です。

1)厚生労働省 人口動態統計
2) 国立がん研究センター がん情報サービス 「がん登録・統計」

続いて、実際に肺がんで治療中の患者さんと肺がん患者さんのご家族の方に、ご自身の体験談を講演していただきました。

講演:HI!女子会(患者代表) 三宅 房世さん
講演
HI!女子会(患者代表)
三宅 房世さん

つながりを大切にして前向きに

病歴と治療歴

健康診断で肺に影が見つかったのは、2012年の9月でした。そこから、血液検査、胸部X線検査、胸部CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィ、PET検査、そしてとても苦しかった気管支鏡検査を受けて、翌10月に肺腺がんのステージⅣと診断されました。
2012年11月から化学療法での治療を始めて、2013年2月から維持療法を23回。2014年10月から分子標的治療薬に変更しました。幸い、この薬が丸4年間、効き続けています。

最初の2年は孤独だった

治療を始めた頃は頻繁に病院に行くこともあり、先生や看護師さんと話をする機会も多かったのですが、病院への受診頻度が減ってからは強い孤独感を感じるようになりました。
職場や友だちには、がんであることをカミングアウトしていなかったうえに、家族とも話がかみ合わなくて、誰にも病気のことを話せなくなっていたのです。インターネットに、同じようながん患者の情報がないか探してみたものの、肺がん患者のブログはほとんどなく、患者会のサイトもあったのですが、何年も情報が更新されていませんでした。「患者会をつくった人たちは、もしかして、もう‥‥」という考えが頭をよぎって、ひどく落ち込みました。

患者会「サミット」に参加

私自身がブログを始めてから、少しずつ他の肺がん患者さんのブログも増えてきて、インターネットでの交流が始まり、仲間を見つけることができました。2016年1月にインターネットでの交流を土台に「サミット」という患者会が発足。早速、参加表明をしました。
そこから、私の生活は大きく変わりました。病気のことを話せる人がいるのです。病状のこと、治療のこと、副作用のこと、今まで誰にも話せなかったことが何でも話せます。今まで誰も理解してくれなかったことを、患者会の仲間は何でも理解してくれます。
さらに、インターネットで知り合った大阪の患者友だちと、「HI!女子会」を立ち上げました。地元の大阪で気軽に集まってお喋りできる場ができて、さらに楽しく過ごすことができるようになりました。

がん看護専門外来がスタート

もう1つ、私が安心できる場所が増えました。それは、私が通う大阪はびきの医療センターの「がん看護専門外来」です。主治医の診察を受ける前に、がん看護専門看護師さんと話ができるのです。前回の受診時から今日までの体調をじっくりと聞いてもらえ、不安や疑問を何でも話すことができます。看護師さんで判断できないことがあれば、主治医に連絡してくれるので、診察時に回答がもらえます。

がん看護専門外来があって助かったなぁと思った例を1つご紹介します。

今、私が使っている分子標的治療薬を服用し始めたとき、「食事の1時間前か2時間後に服用すること」と言われていました。会社の同僚にカミングアウトしていない私は、毎日、時間になると隠れて薬を飲んでいました。ところが、患者仲間から「私は食後に飲んでも良いと言われたよ」という話を聞いたのです。看護師さんに質問してみると、最近になって食事の影響がないことがわかってきたということでした。自分で時間を決めて飲んだら良いということで、朝、自宅で飲んでから出勤できるようになりました。おかげで、大きなストレスが1つ解消されました。

前向きに人生を楽しみましょう

仲間は大事です。私は「生きる力」だと思っています。この会場にまだ仲間がいない方がいたら、隣の席の方に声をかけてみませんか。主治医の先生、看護師さん、薬剤師さん。みなさん親身になって支えてくださいます。不安なことも疑問も、何でも思っていることは伝えましょう。がんになってしまったのは仕方ないことです。泣いて過ごすより笑って過ごすほうが良いですよね。仲間を見つけて、支えてくれる医療者のみなさんを信じて、前向きに、笑顔で人生を楽しみましょう。

講演:肺がん患者の会ワンステップ(患者家族代表) 米澤 晴美さん
講演
肺がん患者の会ワンステップ(患者家族代表)
米澤 晴美さん

患者・家族・医療者のコミュニケーション(患者と家族)

受診から診断まで

夫が肺がん患者でした。家族の立場からコミュニケーションについてお話します。
夫ががんと診断されたのは2014年2月でした。長引く咳で内科や耳鼻咽喉科を受診した後、夫が1人で職場近くの呼吸器内科に行き、肺がんと診断されました。そのとき私は職場にいて、夫からの電話で診断内容を聞きました。
その翌日に総合病院で一連の検査を受け、入院後詳しい説明を受けました。このときは独立していた子ども2人にも同席してもらいました。
診断の内容は、縦隔原発の小細胞肺がん。肺内転移、背骨にも転移がありステージⅣ。心臓に近すぎるので手術も放射線治療もできない、ということでした。
このとき、先生から「聞きたいことはないですか?」と言われましたが、ステージⅣという言葉で頭が真っ白でした。それでも何か聞かなければと焦った私は、「ステージⅣって、もうダメだということですよね」というようなことを口にしてしまいました。夫が横にいるのに、です。言葉を発した途端に後悔しました。
ところが先生は、「そんなことはありません。体力もあるから治療はできます」と言われたのです。先生の言葉を聞いて、安心したのを覚えています。そして、どんなことでも聞いてみないとわからないと感じました。

治療中は毎日、話をした

入院中は毎日、病院に顔を出していましたし、一次治療の化学療法の際には、通院日に休みを取って一緒に行くようにしました。二次治療になってからも、主治医の診察日には必ず一緒に行きました。夫の職場と私の職場が近かったので通勤の行き帰りも一緒にいました。人から「老後の夫婦みたいだね」と言われましたが、楽しい時間でした。
それだけ一緒にいても、コミュニケーションは難しいものです。あるとき、主治医の先生の話を一緒に聞いていたのに、一番重要なポイントと思ったところが、夫と私で違っていることに気づいたのです(図)。

図.同じ話を聞いても夫と私で解釈が違っていたこと

図.同じ話を聞いても夫と私で解釈が違っていたこと

一緒にがんと闘っているのだから認識は同じほうが良いと思ったので、それからは一緒に聞いた話でも、帰宅してからどのような内容だったかを2人で話し合うようにしていました。
よく、がん患者のご家族が、病気や今後の予定については話しづらいと言われます。でも、私たちは日頃からいろいろな話をして、そのなかで自然に病気のことも先のことも話していたように思います。家族でも口に出さないとわからないことはたくさんあります。どんなことでも言葉にして伝えるのがとても大切だと思います。

価値観を共有すること

治療中に夫が大切にしていたのは、今までの生活を続けるということでした。仕事を辞める考えはなかったようです。これまで通り、週末には孫たちが家に来て楽しく過ごす。今まで通りの生活に治療という用事が増えた、という感じで過ごしていました。
もう1つ夫が決めたのは、自由診療など保険診療外の高額な治療は受けないということでした。先生が勧めてくれる標準治療で頑張る、それ以上のことはしない、というのが夫の意思でした。
このような夫の価値観も、2人でたくさん話をしたからこそ理解できたのだと思います。

話をすることが大事

家族といっても他人です。患者とその家族というのは立場も違います。話してみないとわからないことだらけです。お互いを思いやりすぎてすれ違うことのないように、元気なときからいろいろと話をして、理解し合える関係をつくっておきたいですね。 私と夫。ひと組の夫婦の例ですが、参考になったらうれしいです。