1.肺がん診断時の思いと治療決定時の決め手

肺がんと告げられたときのそれぞれの思い

川上:進行役を務めさせていただく川上です。大学病院の放射線科病棟で看護師として働いた後、今はがん患者さんをサポートする活動をしています。今日は、肺がん患者さんとそのご家族、肺がん診療に携わっている医師、看護師の治療に対する思いをお聞きし、よりよい治療とは何かのヒントをつかめればと思っています。
お話をお聞きするのは、患者代表の小倉正一さん、奥様の越子さん、肺がん患者の会ワンステップ代表の長谷川一男さん、市立岸和田市民病院腫瘍内科医(現・大阪市立大学大学院医学研究科臨床腫瘍学)の金田裕靖先生、都立駒込病院看護部の春藤紫乃さんです。
早速ですが、小倉さん、初めて肺がんと告げられたときの状況やお気持ちを教えていただけますか。

小倉正一:私は2015年6月にIV期(ステージ4)の肺腺がんと診断されました。2017年6月に脳転移と癌性髄膜炎が起きましたが、何とか切り抜け、今は仕事をしながら通院で治療をしています。
初診時は、胸水がたまって右の肺が真っ白な状態で、いろいろな検査をして確定診断までに時間がかかりました。その間は、がんでないことを必死に祈っていました。最終的には生検をして肺腺がんと診断されたのですが、それを告げられたときは頭が真っ白になり、相当落ち込みました。当時はがんについての知識がなかったので、先が見えず、「人生を諦めるしかない」とまで思いましたね。告知時に同席していた妻は、私以上に落ち込んでいたように見えました。その姿を見て、自分がもっとしっかりしなくては、と少し冷静になったのを覚えています。同時に、何か方法はないか、と考えるようになりました。

小倉越子:私は、自分の母を9年前にがんで亡くしたのですが、そのときは病院が遠方だったこともあり、いろいろ大変でした。主人が肺がんだと告げられたときは、母の看病のことを思い出して動揺しました。でも、母のときの経験を踏まえて、家から遠くない、がんの専門病院を探す必要があると思いました。そして、探し出した病院でセカンドオピニオンを聞くよう主人に勧めました。

川上:ご夫婦の連携プレーですね。

小倉正一:はい。私にはセカンドオピニオンの知識はなかったので、妻が勧めてくれて助かりました。どうしていいかわからない中でも、まずは何かやってみようという思いでした。セカンドオピニオンを通して、肺がんやその治療に関する情報を何かしら得られたらという期待もありましたね。

川上:肺がんと知らされたときは、治療の話もしたのでしょうか。

小倉正一:診断時は私も妻も動揺していたので、治療の話には至りませんでした。

川上:動揺されていた中でも、何かしら情報を得ようと行動されたわけですね。長谷川さんは、8年前に肺がんと診断されたとき、どのようなお気持ちでしたか。

《患者の会》長谷川 一男さん 長谷川:僕は自覚症状が出て病院に行ったのですが、検査が進むにつれて、機械がどんどん大きくなっていき、不安になったのを覚えています。今でしたらCTも普通に受けていますが、慣れていない当時は、CTがとても大きな検査に思えました。診察いただく医師の方も、若手の先生からベテランの先生に替わり、どんどん大ごとになってきた印象がありました。そして肺がんIV期(ステージ4)という確定診断がつき、組織型が判明すると、状況がどんどん悪い方向へ進んでいるような気がして、当時はかなり緊張の強い日々を過ごしました。
小倉さんの奥様と同じく僕の妻も活動的なので、同じようにセカンドオピニオン先を積極的に探してくれました。妻には感謝しています。幸い、僕は最初の治療が著効してくれたのでその波に乗り、IV期(ステージ4)と診断されてから8年経過して今に至ります。

《患者の会》長谷川 一男さん

初めて受ける肺がん治療に求めること
「少しでも長く続けられ、日常生活が変わらない治療を受けたい」

川上:小倉さんは、セカンドオピニオンを受けられた病院で治療を開始されたのですよね。その病院で治療をしようという決め手は何だったのでしょうか。

小倉正一:セカンドオピニオンをしてくださった先生が、「治療をしながら会社勤めをしている患者さんは何名もいらっしゃいますよ」とおっしゃってくださいました。私は仕事を続けたかったので、それを実現できるかもしれないという望みを示してくれた先生と治療をがんばりたいと思いました。

川上:セカンドオピニオンを聞いて、納得して治療に入れるという状況だったのでしょうか。

《患者》小倉 正一さん 小倉正一:はい。私は分子標的治療薬を使用できるタイプの肺がんでしたので、そのお薬がどうやってがんを攻撃するのか、どのような副作用がでるのかといった詳しい説明もお聞きしました。実のところ、一次治療のときはそれほど肺がんに関する知識がなかったので、どういう治療選択肢があって、「なぜ私の治療にこの薬が選ばれたのか」という点まで先生に質問することはできませんでした。しかし、二次治療を選ぶときには、患者会への参加を通じて知識も増えていたので、先生に「なぜこの治療なのか?」と積極的に質問できるようになりました。

《患者》小倉 正一さん

川上:これだけは治療に望みたいということはありましたか?

小倉正一:先ほども少し言いましたが、私にとっては仕事を続けることがすごく大事なことでした。がんになる前は、かなり根を詰めて仕事をしていたこともありますが、がんと診断されてからは、無理をせず、できるだけ長く仕事を続けるというのが私の望みになりました。ですから、主治医の先生から治療をしながら会社で働いている患者さんもいると聞いたときは、光明が見えたと思いました。

川上:長谷川さん、患者さんやご家族は、がんの告知後、まだ動揺している状況から治療に入っていくときに何を一番望んでいるのでしょうか。

長谷川:普通の生活を送れることではないでしょうか。新しい薬が出てきたことで、長く治療が続けられる場合も増えてきているように感じます。実際、年単位で同じ治療を継続できている患者さんもいらっしゃいます。したがって、命を長らえることに加えて、どう生きるかが重要になってきています。その答えが、「普通の生活を送れる」ということなのだと思います。

《司会》川上 祥子さん 川上:命を長らえることへの期待はもちろんですが、さらに「よく生きる」ことを望んでいらっしゃるということですね。

《司会》川上 祥子さん