2.医療従事者・患者会とのコミュニケーション

医師に自分の気持ちを伝えるために患者ができること
「自分の気持ちや今の状態、次の治療についての考えを手紙にして医師へ渡しました」

川上:治療開始のとき、患者さんとしては、医師や看護師からどのようなサポートがあったらいいなと考えていらっしゃいましたか。

小倉正一:治療を始めるにあたって一番知りたいことは、どれぐらいの間、治療を続けられるのか、その期間をどう過ごすのか、ということでした。主治医の先生からは「治療の経過は患者さんによって違うので」というお答えをもらうことが多かったと思います。そのあたりのギャップを埋めるために、肺がんについて自分なりに勉強し、いろいろな患者会にも参加して先輩方の体験談から多くのことを学びました。治療開始1年半を過ぎた頃、不安な点や今の状態、次の治療オプションなどを手紙に書いて先生にお渡ししました。それ以来、先生はなぜこの治療を選んだかなどを以前よりも詳しく説明してくださるようになりました。手紙を介して私の気持ちや考えを知ってもらって良かったと感じています。

金田:素晴らしいですね。外来の短い診察時間しか患者さんとのコミュニケーションを取れないときは、助かります。

川上:金田先生は、がんの診断や治療方針を説明するときに工夫されていることはありますか。

金田:最近の肺がん診療は外来で行うのが主流なので、患者さんに初めてお会いしてから、2回目の外来で、がんであることを知らせなければならないという状況です。最初に医師に会うとき、患者さんはやはり大きな不安を抱えていると思うので、できるだけ安心してもらえるように努めています。先ほど小倉さんから、先が見えないと不安というお話が出ましたが、その不安を和らげるためにも、検査や治療などの今後のスケジュールを具体的にお伝えするようにしています。

川上:看護師さんは、これから肺がん治療を始める患者さんに対してどのようなサポートをされているのでしょうか。

《看護師》春藤 紫乃さん 春藤:当院の外来では、医師が「この患者さんは早めに看護師のサポートが必要」と判断したら、看護師が治療の説明時から同席します。治療の説明時は、まだ頭が真っ白な状態という患者さんも多いので、その後、どういった点を補足した方がいいか考えながら患者さんの様子を見ています。医師の話が終わった時点では、「先生が治療しようというからやってみる」、「それがよいのか悪いのかもわからない」とおっしゃる患者さんが多いのですが、できる限り丁寧にお話を聞きながら、「どんなことを大事にしたいのかな」、「今何が必要とされているのか」というところを観察し、患者さんが本当に納得しているかなどの本音をうまく引き出すようにしています。

《看護師》春藤 紫乃さん

長谷川:「チーム医療」は入院時のみのサポート体制だと思っていましたが、外来治療でもケアしてくださっていると聞いて安心しました。内服薬を使用している患者さんは外来だけで完結するので、病院のサポート体制を知らないことが多いんです。そういった患者さんに、相談にのってくれるところを知らせることはとても大切だと思います。

川上:内服薬による治療を受けている患者さんにとっては、医師や看護師と会う時間がとても貴重なのですね。

金田:外来での診察時間は確かに短くなってしまいますが、そのなかでも聞くべきことはお聞きします。ただ、診察の最初に聞く必要はないと思っています。診察時は患者さんとコミュニケーションをとることが大切なので、副作用のチェックをしながら、「実際に治療をやってみて、治療を始める前に思い描いていたイメージと違いますか?」のような質問で治療に対する患者さんの不安や恐怖を聞き出し、それを取り除くようにしています。もう少し治療が進むと、日常生活の変化について患者さんが話しやすい話題に交えて聞くようにしています。

川上:最初はだれもが患者初心者ですから、「この症状はどこまで言っていいのかな」とか、「これは先生に言うべきなのかな」というのがわからないまま治療に入っていきます。特に、日常生活のちょっとしたことまでは、先生に話さないことが多いと思うので、先生から聞いていただけると、話しやすくなりますね。

小倉正一:そうですね。患者にとっては、最初は何を言えばよいのか、そのポイントがわからないですよね。私は、治療が進むにつれて、「今はここが気になっています」と伝えれば、先生はそこを注意して診てくれることがわかってきたので、毎回の診察時に伝えるようにしています。そうするようになってから、主治医の先生には本当によく診ていただいていると感じています。

同じ悩み、思いを抱える患者会の方々との出会い

川上:小倉さん、患者会との出会いについて教えていただけますか。

小倉正一:病院のピアサポート(患者経験者)の方に長谷川さんのワンステップを紹介いただいて、夫婦で参加しました。参加されている皆さんの視点や考え方、情報収集の仕方など、とても勉強になりました。なかでも、私より治療が進んでいる方の意見が、自分の将来を見通すうえでとても参考になり、治療に対して自分なりの目算を立てられるようになりました。また、視野が広がり、もっと積極的に情報を集めようという気持ちにもなりました。

小倉越子:患者会には私も参加しました。私以外にも家族と一緒に来ている方がいて、今では家族同士でいろいろ話し合って、悩みを共有したりしています。

小倉正一:患者会では、肺がんのタイプごとに分かれて話し合ったりもします。同じ境遇の人と、治療について深く話すことができるので助かります。

長谷川:同じ治療をしている他の患者さんがどのような生活をしているかを知れば、ロールモデルになると思います。参加者が増えてくると、ご家族のグループもできて、悩みを共有できる場になっていましたね。

川上:「肺がんは怖くない」と励ましあうというわけではなくて、「同じがんを患っている人はどうしているのかな」というのが知りたいんですよね。金田先生、患者さんのなかには、自分の病気について知りたい方もいれば知りたくないという方もいらっしゃると思いますが、どのように接していらっしゃいますか。

金田:そうですね。悪いことは聞きたくないという方から、がんについて熱心に勉強していていろいろ聞きたいという方までさまざまです。たくさん話したいという患者さんの予約は最後に入れて、後の診察を気にせずにゆっくりお話を聞くようにしています。

副作用の伝え方
「この程度で相談してもいいのかな」と悩んだときは

川上:肺がん治療を受けていて、「この症状は相談したほうがいいのかな」、「この症状は放っておいていいのかな」と不安になることはありませんか。

小倉正一:私は脳転移と肺の症状があるので、それらをうまくコントロールするためにも日々の状況をメモにとっています。たとえば、症状のリストを作って、よい状態であれば〇、悪い状態であれば×、その中間は△と記入し、今の気持ちや考えも書き留めます。自分の症状を1日1回振り返ることを習慣化したおかげで、体調や症状の変化のパターンがわかるようになり、副作用とも付き合いやすくなりました。

春藤:素晴らしい取り組みですね。小倉さんのような方はよいのですが、外来患者さんで心配なのは、SOSを出せない方、SOSを出すタイミングがわからない方です。外来診察日以外で気になる症状がでたときに、「病院に電話してもいいのかな」、と悩む方が多いようです。

《家族》小倉 越子さん 小倉越子:主人も治療を始めた頃はそうでした。「皮膚の症状があるけど、これって電話してもいいのかな」、「頭痛があるんだけどこの程度で相談してもいいのかな」と悩んでいました。しっかり伝えた方がよい、と周りが思ったとしても、本人としては言い出しづらい場合もあるのだと思います。

《家族》小倉 越子さん

春藤:当院では、外来日以外の日で気になる症状がでた場合は電話をくださいとお伝えしています。その電話は看護師が一旦お受けして話を聞き、看護師で解決できることであれば看護師がアドバイスし、必要であれば医師につなぎます。不安に感じていることを医師に聞けていればよいのですが、そうでない場合、看護師としては聞けていない部分に関する情報を率直にお伝えするようにしたいと思っています。患者さんに「いつでも連絡していいんだ」と思っていただけることが、安心感につながると考えています。特に外来の患者さんには、「〇度以上の発熱があったら電話してください」というふうに、見逃して欲しくないポイントを患者さんが判断しやすいように伝えています。

長谷川:がんと共存して生活する期間が延びても、副作用で苦しんでいる期間が長いと意味がないのではないか、とよく言われますよね。たとえ副作用の程度が軽くても、それが治療中ずっと続くと24時間そのことばかり考えてしまいます。

春藤:そのあたりのマネジメントは重要ですよね。同じパンフレットを使って副作用の説明をする場合にも、患者さんの生活に合わせて大事な点をお伝えしています。なかには、「泣き言を言ったら薬を変えられてしまうかもしれない」という心配もあって先生へ言い出せない患者さんも少なくありません。そういった患者さんの気持ちをくんで、副作用がでていないかどうか、看護師からこまめに声をかけていくことが大切だと思います。