野澤 桂子先生 (臨床心理士)

脱毛などの外見にあらわれる症状に、多くの患者さんが、強い苦痛を感じています

がんと診断されただけでも心にも大きな痛手を受けます。その上、手術や放射線、抗がん剤などの治療による外見の変化を目の当たりにすると、さまざまな喪失感におそわれ、せっかく治療経過が順調でも、気分が沈んだり、人に会うのが億劫になったりすることがあります。

がん患者さん638人にがん治療中の「苦痛」について聞いたところ、性別やがんの種類によって異なりますが、脱毛や皮膚・爪の障害、体重の増減など外見の変化は、頭痛や口内炎などの身体にあらわれる症状と比べても苦痛レベルは高く、苦痛トップ20の上位を占めました1)

外見の変化によって、これまでどおりの対等な人間関係でいられなくなってしまう。そこに不安を感じています

ところが、さらに研究したところ、患者さんが苦痛を感じていたのは、個々の症状そのものではありませんでした。外見の変化に苦痛を感じる理由は、①それ自体が病気や死のイメージに直結し、常に自分や人に思い出させるから、②外見が自分らしくなくなり喪失感があるから、③外見から病気がわかってしまい、職場や社会生活の中で、今までどおりの対等な人間関係でいられなくなるから、というものでした。

特に、③の「今までの対等な関係性が崩れてしまうかもしれない」という不安は大きく、多くの方が、職場などのコミュニティーの中で、「かわいそうだ」「あてにならない人だ」と思われたくないと考えていました。
実際、ほとんどの患者さんが、脱毛しても世界に自分ひとりだったらこんなに苦しくないかも、と話されるように、外見の変化は、コミュニケーションシーンでのみ生じる「社会的で相対的な苦痛」なのです。頭痛や腹痛などのように、どこにいても、ひとりでもつらい身体的苦痛とは大きく異なります。

1)野澤桂子ほか:Psychooncology. 22, 2140-2147, 2013

図)がん治療中の主な外見変化

がん治療中の主な外見変化