野澤 桂子先生 (臨床心理士)

これから治療を開始するにあたり、
脱毛や皮膚障害、体重増減など外見変化について不安を感じている方へ

まず、外見変化の程度やプロセスを医師や医療スタッフからきちんと聞きましょう。
治療薬の種類によって、脱毛するもの・しないもの、頭髪の脱毛はあるが眉毛やまつげの脱毛まで至らないもの、いったん脱毛するが治療後に時間をかけて戻るもの・戻りにくいものなど、さまざまな特徴があります。

皮膚の症状や体重変化についても同様です。また、薬物治療の開始から脱毛、皮膚症状などがあらわれてくるまでには、ある程度の期間がありますので、準備期間がどの程度あるかも確認してください。例えば、90%以上の脱毛が生じる薬剤の場合でも、投与から3週間近く経過してから脱毛が始まることが多いため、焦ってウィッグを用意する必要はありません。
また、今は、治療中でも副作用をコントロールして社会生活を送る人も増えています。ですから、あなたが受ける治療法で、自宅や病院で横になるほど体調の悪い日がどの程度あるのか、会社への出勤や日常生活を送れるようになるのは治療から何日後ぐらいと考えておけばいいのか、といった一般的な体調の変化についても医療スタッフに聞いてみるとよいでしょう。
具体的な生活をイメージしながら、髪型や服装はどうするのか、つまり治療中の自分の姿をどのように演出するのか、じっくりと作戦を練ってください。
特に、化粧品や美容に縁遠かった男性には抵抗があるかも知れませんが、治療前から自分自身のお手入れ法を考えることをお勧めします。最初は奥様やパートナーの物を拝借してみてもいいかもしれません。化粧水や乳液をつけて肌を保湿ケアすることや、洋服や靴を自分で選んでみることから始め、せっかくですからどのようなスタイルが自分らしいのかを考えてみましょう。

職場復帰を控え、治療後の外見変化に悩んでいる方へ

職場の同僚ががんの治療後に復帰する日、あなたは、その人をどんな気持ちで迎えますか?
親しい仲間であれば、元気や体力がなくなっていないか、以前と同様に仕事はできるかと心配するだけではないでしょうか。仮に、治療によって外見が変化していても、以前と変わりなく仕事をされ、明朗な人、几帳面な人といったその人のイメージが変わっていなければ、それらの心配は払拭され、喜んで仲間として受け入れられるのではないでしょうか。これは、あなたが復帰するときも同じなのです。

職場復帰時にお願いしたいのは、次の3つです。まず、①短時間でも、働くときは以前と変わらない仕事ぶりを発揮してください。また、②仕事中の受け答えも以前と同様にしましょう。
そして、③周りのみんなが笑っているときには、とりあえず、一緒に笑ってください。復帰直後は、周囲のメンバーも、あなたが疲れていないか、痛みや辛さはないか、不自由はないかなど、あなたの表情や動きなどに敏感になっている時期で、単純に聞き取れなかったときでも、暗くなったと誤解されることがあるのです。
この3点に気をつけていただければ、あなたがどんなスタイルで戻っても大丈夫。1週間も経たずに、同僚の方々は以前と同じあなたが戻ってきたことを理解して安心し、互いに笑顔が生まれる良い循環ができるからです。

治療中の日常スキンケアは、とても大切です
「清潔に保つ」「保湿する」「保護する」を実行しましょう

男性でも身だしなみとして保湿剤やアフターシェーブローションなどを用いて肌のお手入れを日常的に行っている方も増えてきました。これまでその習慣がなかった方も、治療中は薬剤の副作用のために肌が乾燥しやすくなったり、皮膚が敏感になったりすることがありますので、日常習慣として保湿ケアを取り入れるようにしましょう。

使用する化粧品に関しては、特に銘柄や品種を選ぶ必要はありません。これまでトラブルなく使用してきたものがあれば、変える必要はありませんので、たっぷりと使用してしっかりと保湿してください。
オーガニックや弱酸性、敏感肌用などを勧められることもありますが、「敏感肌」「低刺激」といった表示に明確な定義・統一基準・法的な規制などはなく、これらが非表示の製品と比べ安全性や使用効果に違いがあるとは限りません。そのため、特にこれらの表示にこだわらなくてもよいでしょう。

また、日焼け止めやステロイドの外用薬などを塗った場合には、丁寧に洗って、完全に落とすようにしましょう。
これまで分子標的治療薬などを使用した場合の皮膚障害のケアに対して、洗顔料をしっかりと泡立てて、泡でそっと洗顔し、日焼け止めをしっかり塗って、できるだけ化粧をしないようにと指導されてきました。
しかし、研究や実験を重ねた結果、日焼け止めは泡で優しく洗ったくらいでは落ちにくいことがわかりました。日焼け止めやステロイドの外用薬などが肌に残ったまま、さらに重ねて塗布しても効果は期待できません。肌をゴシゴシこすらず、完全に落とすことを目標に丁寧に洗ってください。また、化粧をしても問題が生じることはほとんどありません。

日常のスキンケアの鉄則

  • 基礎化粧品(化粧水や乳液)は、特別なものを使う必要はありません
  • きちんと保湿しましょう
  • 治療薬や日焼け止めなどを塗ったら、丁寧に落としましょう

ウィッグ選択時は、あまり細部にこだわらず、
最も自分らしく似合うと思うものを、自分で決めましょう

脱毛の悩みは、患者さんの中で最も多く、苦痛のレベルも高いものでした。
多くの患者さんにとって「ウィッグと知られること=がんを知られること」であり、自分のキャリアや人間関係に悪影響を及ぼすと考える方が多いため、病気を隠すためのウィッグ選びが過熱することも少なくありません。

現在、日本で購入できるウィッグの数を、メーカー数×スタイル数×カラーバリエーションで計算すると、5,000~7,000個もあると考えられます。価格も3,000~600,000円の幅があります1)が、当院では、94万円のウィッグを3個所持している方もいました。複数の調査で示されていますが、最近は5万円以下で探す方が増えているようです。実は、ウィッグも洋服や靴を選ぶのと全く同じように考えていただくとわかりやすいと思います。人それぞれ好みや価値観が異なり、ブランド、素材、スタイル、コスト、何を重視するかで価格も大きく異なるのです。

ぜひ、ご自身で、最も自分らしいと思えるもの、自分に似合うと思うものを、パンフレットを取り寄せたり、実物を試着したりして吟味してください。そして、ご自身で決めることをお勧めします。
一つひとつのプロセスはとても面倒ですが、自分で自分らしさを表現できるものを選ぶという努力がとても大切です。それが、治療生活へのコントロール感にもつながると感じています。
実際に、私たちの研究では、外見の問題に自分なりに対処できたと思う方ほど、治療への意欲も高くなり、QOL(生活の質)も高くなっていました。

ウィッグを選ぶ際の必須条件として、まず、これは素敵だとご自身が思えるものを選ぶことです。目に留まったウィッグがあれば試着してみてください。そして、正面から見て、自分らしく似合っている、または、ちょっと華やいで素敵と思えるようなものであればよいと思います。そして被り心地が自分にフィットするかも確認してください。
ウィッグの価格はさまざまですが、1年間の理美容室代でまかなえることもひとつの目安としてよいでしょう。少し迷いがあれば、家族と相談したいと言って、即決せず、他のものを検討してみてもよいでしょう。返品できる通販サイトを利用するのも一手ですね。

メーカーや相談先によっては、つむじの自然さや毛髪の手触りを重視するように説明されることもあります。
不自然なウィッグで他人に病気を悟られることを恐れるため、自然さをより追求した高価なものが良いものと考えてしまいがちです。
しかし、ご家族のつむじがどんな形だったか思い出してみてください。多くの方は、毎日見ているであろうご家族のつむじでさえ、覚えていないのではないでしょうか。
また、過去1年、あなたの髪に誰が触れたか思い出してみてください。おそらく美容師さんと特別な人しかいないのではないでしょうか。ならば、髪の手触り感も、自分で髪をよく触る癖のある人以外にとっては、それほど重視しなくてもよいかもしれません。

一方、人によっては、高品質なものこそ自分らしいと判断されるでしょう。おしゃれウィッグとして、複数の違ったタイプを購入し、仕事と趣味のシーンに合わせて楽しむという選択をされる方もおられます。これらは、自分らしさを表現するアイテムでしかありません。洋服や靴、車と同様、生活の中で、どのような場面で使用し、自分をどう表現したいのかに合わせて、ご自身で選択してください。
そして、ウィッグをつけないという選択肢もあります。外見変化の解決策は複数あり、さまざまな選択肢について検討することが大切です。

図)男性患者さんのアピアランス支援の実際2)

男性患者さんのアピアランス支援の実際

1)川端博子ほか:日本家政学会誌. 68, 60-69, 2017.
2)野澤桂子ほか:臨床で活かす がん患者のアピアランスケア(南山堂)