食のチカラ

食にまつわる基本心得 3か条

病状や治療内容によっては、食事に関して主治医の判断が必要な場合があります。
適切な食事・栄養については、主治医とよく相談してください。

「治療の第一歩」ともいわれる「食べること」をしっかりと実践していくための心構えや準備について伺いました。肺がんの診断を受けたらすぐに、本人はもちろん家族にも知っておいていただきたい内容を、3か条にまとめています。

川口美喜子先生

監修:川口美喜子先生
大妻女子大学・大妻女子短期大学部 家政学部 食物学科 教授。管理栄養士(医学博士)。著書に「がん専任栄養士が患者さんの声を聞いてつくった73の食事レシピ」(医学書院)。

その1.診断時から考えたい、栄養のこと

肺がんの告知を受けると、誰でも動揺するのは当然のこと。治療はもちろん、お金や仕事、家族や生活のことなどで頭がいっぱいになり、気持ちが落ち込んで「食べること」がおろそかになってしまいがちです。肺がん患者さんの中には喉がつかえる症状があり、診察を受ける前から気づかぬうちに食べる量が減ってきたという人も少なくありません。そのため、治療の前に既に体重が減り、栄養状態も悪くなっていることが多いのです。

しかし、肺がんの治療には体力勝負の側面があります。しっかり治療を受けるためには、少しでも栄養状態をよくし、体の基礎力を高めておくことが大切です。そこで、告知を受けたらまずは「しっかり栄養を摂ること」を考えていただきたいのです。食べることから「治療の第一歩」が始まっていると言っても過言ではないでしょう。

医学的な治療はお医者さんが、ケアは看護師さんがやってくれます。でも、自分の体は自分でないとつくれません。すなわち食べること、栄養を摂ることなのです。

その2.手軽にしっかり「食べられる環境」を整えよう

肺がんの治療を受け始めると、多くの場合、様々な副作用に見舞われることがあります。体力があれば、副作用の影響を減らすことができますが、完全に避けることは難しいと言われています。
そんな副作用に負けず、しっかり食べて体を整えるために「食の環境」づくりが大切です。「食べること」で病気と闘うことは、自分自身とご家族にしかできません。手術や入院などが始まる前に、「できるだけ手をかけずにしっかりと食べられる環境」を整えましょう。

簡単に作れるメニューを開発する

気分が優れないときでも「あれなら作れる」「あれなら食べられる」という簡単で栄養を摂りやすいメニューや献立を覚えておきましょう。缶詰や半調理品などを常備しておくと安心です。

楽に調理できる調理器具を揃える

調理機材を賢く活用しましょう。スープを作るミキサーやみじん切りがあっというまにできるフードプロセッサー、電子レンジ調理ができるスチーマーなど、気分が優れないときなどに重宝します。

家族の協力体制を整える

家族で分担して食事を準備できるよう、トレーニングしておきましょう。一緒に買い物に行ってお店や商品の場所を伝えておく、家族に簡単に作れる料理を覚えてもらうなど、準備をしておくと、協力してもらいやすくなります。

その3.「食べる」目安は、エネルギー総量とたんぱく質

病気になって食べることに問題を抱えるようになると、体重が減り、同時に体力も低下していきます。時々「食べているのに、どんどん体重が減るの」とおっしゃる患者さんもいますが、食べているのは「そうめん」「トマト」というんですね。それでは、食べても痩せるのは当然のこと。食べるのなら、体重と体力を落とさないよう、特に次の3点を意識しましょう。

1日分の総カロリーを落とさない

体重が50kgで50歳の方の場合、体重を落とさないためには1000〜1500kcalが必要になります。もし炎症や吐き気などで、1食分をしっかり食べるのが難しい場合は、間食をこまめに取り入れるなどして「1日分のカロリー」で考えればOKです。

たんぱく質をしっかりと摂る

カロリーをしっかり摂るといっても炭水化物などに栄養が偏るのはよくありません。食事のバランスを考えて献立を組み立てることが大切です。中でも意識して摂りたいのが、体力を支える血液や筋肉の原料になる「たんぱく質」です。肉や魚のこってりした料理が苦手になる人が多いので、調理法や味付けに工夫したり、卵や豆腐などで代用したりするとよいでしょう。

栄養剤で栄養を賢く補給

食欲のない中でしっかりと食事を摂るのは案外難しいもの。でも、それがストレスになっては本末転倒です。そこで活用したいのが「栄養剤」。カロリーや各種栄養素などを上手に補給し、食べる負担を減らしてくれます。最近はゼリータイプや甘くないものなども登場し、味にもバリエーションが増えてきているので、好みのものを探してみましょう。