情報を見極める力で患者力をアップしよう

その情報を見直してみよう!

監修:大野 智 先生

監修:大野 智 先生
島根大学医学部附属病院臨床研究センター 教授。1998年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成などにも取り組む。

がんに効くかどうか、どうやって判断するの?

ポイント:
信頼性の高い方法で科学的に効果が証明されているか

がんに限らず病気の治療を受けるときは、「よく効く薬を使いたい」と誰もが期待します。医学・医療の領域では通常、より多くの人に対して効果が期待できることを「よく効く」と言います。ポイントは信頼性の高い方法で科学的にその「効果(有効性)」が検証されているかどうかです。
ここでは信頼性の高い方法のひとつとしてランダム化比較試験について説明します。これは、医薬品の有効性を検証するためにおこなわれている重要なステップです。

ランダム化比較試験とは

研究対象となる人を無作為に2つの集団に分けて効果を比較する試験です。

たとえば、血圧を下げる高血圧の治療薬では、高血圧の患者さんを、新薬を使うグループ(図中A)と従来の薬のグループ(図中B)に無作為に分けて治療をおこない、グループAがグループBよりも治療効果(脳卒中の発症予防など)が高ければ、新薬がよく効く薬として認められます。

つまり科学的に見て「効果がある」という裏付けとして、「ランダム化比較試験」が最も信頼性が高いとされ、いま保険診療の中で使われている薬のほとんどはランダム化比較試験によって効果が証明されています。

  • ※ ランダム化:「無作為」にグループ分けすること。

ランダム化比較試験のことを知っていると、何かを勧められて「効きそうだから飲んでみたい」という気になったときも役立ちます。まずは、すぐに決断せずに一息入れましょう。そして「ランダム化比較試験によって効果が検証されているか」を確認してみましょう。もし、ランダム化比較試験で検証されていない場合、その治療法は「現時点では効くかどうかわからない」ということを意味していますので、耳寄りな情報であっても冷静に受け止めることが重要です。

現在のところ、健康食品をはじめとする補完代替医療で、「がんを治す」「寿命を延ばす」効果がランダム化比較試験で認められたものはありません。

補完代替医療とは1)

「一般的に従来の通常医療と見なされていない、さまざまな医学・ヘルスケアシステム、施術、生成物質など」と定義されています<国立補完統合衛生センター(米国)>。
補完代替医療には、健康食品・サプリメント(漢方、ビタミンを含む)、食事療法、鍼灸、気功、ヨガ、マッサージ、運動療法などが含まれます。なお、一部の補完代替療法では、患者さんの生活の質を改善する効果がランダム化比較試験で認められています。

  • ※ 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト(https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c05/01.html)では、患者さんやご家族の方、医療専門家に、民間療法をはじめとする補完代替医療についてもエビデンス(根拠)に基づいた情報を紹介しています。

脳はだまされやすい!

ポイント:
脳はもともとだまされやすいことを、つねに意識する

ランダム化比較試験の重要性を理解していたとしても、世の中には多くの情報があふれていて、ときに惑わされてしまうことがあります。場合によっては、科学的根拠がないものでも、宣伝・広告のあの手この手で効果があるように見せている例があります。脳のだまされやすさを利用した主な例をご紹介します。

●経験談・体験談は、なぜ信じられやすい?

「✕✕で痩せた」「◯◯で膝の痛みがとれた」などといった経験談や体験談は、同じ悩みを抱えた人にとって魅力的にみえます。これは「第三者が発信した情報は信頼されやすい」という心理的傾向(ウィンザー効果)を狙ったものです。現在のところ、健康食品をはじめとする補完代替医療で、「がんを治す」「寿命を延ばす」効果がランダム化比較試験で認められたものはありません。

●権威者の意見は信頼できる?

「有名な大学教授がよく効くと紹介していた」というのも、人が持つ権威への服従心理を応用したものです。「医学博士」といった肩書や、「〇〇大学と共同開発」「△△大学で発見された新規物質」といったかたちで名門大学をアピールする手法も、この心理効果を応用したものととらえてください。

●みんなが使っていれば大丈夫?

「巷で流行」「50代の女性の7割が利用」などといった宣伝文句を目にすることがあると思います。これらは、流行しているものに対して好意的に捉える効果(バンドワゴン効果)や、周囲の人と同じ行動をしていると安心するといった心理効果(同調現象)が仕組まれています。

●数字のトリック

「ビタミンC 200mg配合」より「ビタミンCがレモン10個分」の方が多いと感じたり(シャンパルティエ効果)、「タウリン1g配合」より「タウリン1000mg配合」の方が多いと感じたり(フレーミング効果)するのも、人が持つ心理効果によって情報が歪んで認識されてしまうことを画策したものと言えます。
このように脳をだますしかけはたくさんあるので、「脳はもともとだまされやすい」と自覚し、効果があるように見せるしかけを知っておくことが、情報の見極めに役立ちます。厚生労働省による「統合医療」情報発信サイトでは、「情報を見極めるための10か条」2)を紹介していますので、ぜひご一読ください。

どうしよう、と思ったときの対応も知っておく

ポイント:
一人で悩まず、主治医をはじめ医療者に相談する
病院の標準治療を否定する情報には疑問を持つ

がんの治療中に、「この薬は本当に効いてくれるのだろうか?」「もっと自分に合った治療があるのではないか」と思うことがあるかもしれません。あるいは、家族や友人・知人からの「こんな最先端の治療法がある」「◯◯病院の✕✕先生がいいらしい」などといった情報に心が揺らぐことがあるかもしれません。さらに、そのような迷いが生じているときに、「抗がん剤は毒」「放射線治療をすると逆にがんになる」など病院でおこなわれる標準治療を否定したり、恐怖感をあおったりするような情報を目にしてしまうことがあるかもしれません。

ですが、そのような情報は鵜呑みにせず、ちょっと立ち止まってみてください。その情報が本当に正確なのか、疑問を持つことが大切です。

病院でおこなわれる治療以外のことを試してみたいと思ったときには、まずは主治医、看護師、薬剤師、栄養士などの医療従事者に相談してください。「こんなこと聞いたら怒られるのでは」「病院で勧められた治療以外のことを言ったら悪いのでは」などと思わずに、積極的に医療従事者に質問をして、その情報が正確なのか自分以外の人に判断してもらうことが、あなたにとっての最適な治療に繋がります。

治療をおこなっていく上で患者さんと医療従事者の信頼関係と相互協力がとても大切です。不安な気持ちや治療の疑問などは自分を担当している医療従事者のほかに、第三者の立場で相談することができる「がん相談支援センター」もあります。また、がんに関する信頼のおける情報をわかりやすく提供しているウェブサイト「がん情報サービス」を利用することもおすすめします。よりよい治療のために、氾濫する情報に一人で悩まないことが大切です。

がん相談支援センターとは

全国のがん診療拠点病院、小児がん拠点病院、地域がん診療病院に設けられた相談窓口です。その病院に通院していなくても、どなたでも無料でどんなことでも相談できます。相談は、面談、電話、電子メールなど、いくつかの方法で受け付けていて、匿名で受けることもできます。

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国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターが運営するインターネットによる情報提供サービスです。

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