情報を見極める力で患者力をアップしよう

先進医療、自由診療など医療の種類を教えてほしい!

監修:大野 智 先生

監修:大野 智 先生
島根大学医学部附属病院臨床研究センター 教授。1998年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成などにも取り組む。

患者さんやそのご家族にとって、「今、病院で受けている治療は効くだろうか?」「これが最善の選択だっただろうか?」など不安や悩みは尽きないと思います。そのようなとき、「何か別の治療があるのではないか?」と情報収集したり、「メディアなどで取り上げられた最新の治療法を受けてみたい」と期待を寄せたりすることがあるかもしれません。

今回は、健康保険でおこなわれている検査や治療とは別の医療、具体的には「先進医療」と「自由診療(保険外診療)」について解説するとともに、向き合い方と押さえておくべきポイントを説明します。

先進医療とは?

ポイント:
保険給付の対象とすべきかどうか評価・検証中の医療技術を用いた治療や検査。

がんの3大治療は手術、薬物治療、放射線治療です。そこに、最近では薬物治療のひとつとして免疫チェックポイント阻害薬などの免疫治療が加わりました。

これらとは別に、「先進医療」という言葉を聞いたことがある人もいると思います。先進医療は、その名前から最先端の医療技術を用いた効果の高い治療法というイメージをもつかもしれません。しかし、厚生労働省は先進医療について、「保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価をおこなうことが必要な療養」と説明しています。つまり、現時点では、まだ薬事承認・保険給付に至っていない、評価・検証中の医療技術を用いた検査や治療という位置づけになります。

病院で通常受ける検査や治療は保険診療ですが、先進医療は保険として給付されない保険外診療となるため全額自己負担です。かかる費用は先進医療の種類によって異なります。なお、国は保険診療と先進医療を併用できる制度を設けています(保険外併用療養制度)。

例:3割負担の患者さんが先進医療を受けて総医療費100万円
(その内20万円が先進医療の費用)の場合

  • ・先進医療の費用の20万円は患者さんが全額負担
  • ・通常の治療と共通する部分(診察、検査、投薬、注射、入院料等)の80万円は保険給付の対象となるため、この内の7割が各健康保険制度から給付され、3割の24万円は患者さんの一部負担金となる
  • ※ 保険給付に係る一部負担(この場合は24万円)については、高額療養費制度が適用されます。

自由診療と先進医療の違いとは?

ポイント:
自由診療とは、検査や治療など全て自己負担で受ける医療

先ほど先進医療の制度では、診察や検査、投薬など通常の医療と同じ部分は保険給付の対象となり(1-3割負担)、先進医療の部分のみ患者さんの自己負担になると説明しました。一方、自由診療では、医師の診察から始まり、検査や投薬なども含め全ての医療行為を、患者さんは自己負担で受けることになります。自由診療の中には「最先端」「最新技術」などとうたっているものもありますが、前述の国が定める「先進医療」とは異なる点には注意が必要です。

自由診療における注意点

ポイント:
健康被害、経済被害、機会損失について注意を払う

保険給付の対象として国が認めている治療は、第1回で説明したランダム化比較試験で有効性や安全性が確認された治療法です。一方、自由診療でおこなわれている治療は、効くか効かないか、ランダム化比較試験などで科学的に検証されていないものがあります。それは裏を返せば、どのような副作用がどのくらいの割合で起こるかなども明らかになっていないことを意味しています。そのため予期せぬ副作用で健康被害が起こることがあるかもしれません。また、自由診療のクリニックは外来診療のみのところが多く、副作用がおきた場合、入院治療はできません。万が一入院が必要となるぐらいの副作用がおきたとき、どのような対応をしてもらえるのかも、事前に必ず確認をしてことも重要です。

前述したとおり、自由診療にかかる費用は全額患者さんの自己負担になります。「費用がいくら以上だと実施してはいけない」と金額で線引きできるものではありませんが、仮にその自由診療を継続して受けた場合、経済的負担は問題ないかどうか慎重に検討しておくことが重要です(詳細は後述します)。また、自由診療における契約トラブルも一部で社会問題化しています。経済被害によって、あとから後悔することがないよう冷静な判断が求められます。

自由診療の中には、病院でおこなわれている標準治療を否定しているケースもあります。もし、標準治療より自由診療を優先してしまうと、標準治療を受ける機会を逃したり、始めるのが遅くなったりして、本来であれば標準治療で得られたはずのメリットを得られなくなってしまう可能性(機会損失)があります。自由診療を誰かに勧められたりして、「やらないよりはましかもしれない」などと迷ったりする場合には、第1回の「情報を見極める10か条」を参考にして情報をいったん客観的に吟味したり、第2回で紹介したがん相談支援センターなどに行ったりして、一人で悩まず信頼できる第三者と相談しながら判断してみてください。

高額な治療費をどう考えたらよいの?

ポイント:
高額な治療費だから効果が高いというわけではない。
また継続できるかどうかも判断のポイント!

自由診療は全額自己負担のため、総じて治療にかかる患者さんの負担は高額となります。人間の心理として、高額な治療であれば効果も高いのではないか、と考えている人がいるかもしれません。家電製品や自家用車などであれば金額が高ければ、高性能・高機能であることは、皆さんも身の回りのこととして肌で感じているかと思います。ですが、医学・医療の分野では、必ずしも高額な治療の方が効果もより高いというわけではない点はぜひ知っておいてください。

もう一点、高額な治療費がかかる自由診療を始める前にぜひ知っておいてもらいたいことがあります。人は誰しも、いったん高額な治療を始めてしまうと、たとえ実際に効果を実感できていなくても、その治療を中断することがなかなかできないという現象が起こります。

高額な治療費を払うことによって起こる「心の働き」

患者さん:
〇百万円もかけて△△治療をしてきたけど、効いているのかなあ?
家族:
でも、この治療をしているから現状維持ができているのよ。
患者さん:
そうだな。治療していなかったら、がんがもっと大きくなって悪くなっていたかもしれないな。

(イメージ)

「高額な治療」をしたら、患者さんは「払った金額に見合った効果があった」と思いたいものです。しかし、現実には期待するような効果を得られているとは感じられないような場合、「〇百万円を損してしまったのではないか」「自由診療をすると判断した自分は間違っていたのではないか」など不安がよぎったり、後悔の念に駆られてたりして不快感を覚えるでしょう。

つまり、「効くかもしれない」という期待と「効いていないかもしれない」という不安や後悔、このように矛盾する考えを同時に抱えたような状態を専門用語で認知的不協和といいます。そして、このようなときに感じる不快感を低減させるあるいは除去するためのするために、人の心にはさまざまな働きが生じます。

ここでのポイントは、「治療費を払った」という過去の事実は変えられないため、現状に対する考え方や捉え方について、不快感を減らす方向に都合よくすり替える心理が働くということです。

具体的には「この高額な治療をしてきたからこそ、とりあえず悪くなることなく現状を維持できている」「病状は悪くなってきているものの、この高額な治療をしていなければ、もっと悪くなっていたかもしれない」などです。このようにして、認知的不協和という不快な状態を少しでも減らそうとします。

そうなると、治療費が高額であればあるほどあとに引けなくなってしまい、効果が実感できていないにもかかわらず治療をやめるにやめられないような状況に陥ってしまいます。「まさか私はそんなことにならない」と思っていても、このような心の働きは、誰にでも起こり得ます。

ですから、重要なのは、高額な治療を始める「前」の認知的不協和が生じていない冷静な判断ができるときに、自由診療をおこなうかおこなわないかを慎重に検討することになります。

高額な自由診療の治療を始める前に、「その治療をしようとする目的は何か?」「目的を達成するための裏付け(臨床試験などの結果=エビデンス)はあるのか?」「エビデンスがあったとしても、その治療効果は金額に見合うものか?」など、さまざまな角度から注意深く見極めていく必要があります。

もう少し具体的な例として、自由診療にかかる費用についての判断方法を紹介します。それは、仮にその治療をおこなった場合に、一生無理なく続けられるかどうかを、ご自身の経済状況を踏まえて判断することです。経済的に問題なく続けられるというのであれば治療をするという選択があるかもしれませんが、もし続けられない、少し無理があるかもしれないというのであれば治療しないという判断をためらわないでください。前述のとおり、認知的不協和という落とし穴にはまると、人はなかなかそこか抜け出すことはできません。

自由診療の治療をするか、迷ったときはどうしたらよいの?

ポイント:
一人で悩まず、主治医や第三者に相談

多くのがん患者さんや家族が、今おこなっている治療のほかに何かできることがあるのではとあせったり、悩んだりしていらっしゃると思います。そういったときは、主治医や看護師などの医療従事者や、(第2回)で説明したがん相談支援センターやピアサポートなどを利用するのもよいでしょう。

話を聞いてもらうことで、「とても不安で、自分でも何か行動をおこさなければとあせってしまっていた」「先生の説明を頭ではわかっていても、これからどうなってしまうのだろうと怖くなった」などの不安に気づき、気持ちの整理ができることもあります。一人で悩まず、周りの専門家や支援者を頼って相談しましょう。

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