ゆったり歩きながら、史跡や自然などを学び楽しむ「ガイドウォーク」を公園でも。前回は東京農工大学名誉教授の福嶋司先生に、植物観察の楽しみ方を教えていただきました。2回目は<実践編>として、実際に公園の中を歩きながら、具体的な観察を楽しむコツなどを伺います。

ゆるっと公園ガイド Vol.2<実践編①>

ポケットには小さな図鑑。公園の木々を「絵合わせ」で楽しむ

今回は福嶋先生のガイドのもと、樹木観察に挑戦します。でも、「観察など見当もつかない」という方も多いかもしれません。そこで福嶋先生がおすすめするのが、図鑑による「絵合わせ」です。

「種類や名前がわからなくても、木全体や葉、花や実などの形や色などを図鑑と見比べて、似ているものを探すことはできるでしょう。『これはこの木かな? それとも…』とクイズ感覚で観察するうちに、その木の特徴や面白みが少しずつ見えてきて、親しみが湧いてくるのです」

「絵合わせ」のための図鑑選びのコツはあるのでしょうか? 「分類別ではないもの、幹や葉、花、実など、写真がたくさん掲載されているものを選ぶといいですね。持ち歩きやすいポケットサイズのもので十分です。その場でわからないときのために写真に残せるよう、カメラも持っていくと良いでしょう」

さらに、葉などが実物大で掲載されている図鑑もあるようです。先生のアドバイスに従い、写真が多めの図鑑を準備、さらにカメラの代わりの「スマホ」を持って、いざ出発です!

散策だけでも気持ちがいい。でも、一歩進んで木を見ると、もっと楽しく。

散策だけでも気持ちがいい。でも、一歩進んで木を見ると、もっと楽しく。

木と向き合うと、それぞれ異なる個性が見えてくる

やってきたのは東京都内の公園。広々とした敷地には大きな木が生い茂り、美しく手入れされた場所と半自然で放置された場所が見られます。都心とは思えない清々しさに、心身共にすっかりリラックスします。緑のあるところは、やっぱり気持ちがいいものですね。

公園に入ってみると、想像以上にいろいろな木があることに気づかされます。まずは手近な葉っぱを調べてみますが、似ている葉っぱが多くて難しい…。

「慣れないうちは、木にかけられている名前札を手掛かりに図鑑から同じ木を探してみましょう。すると、木や幹、花や実などの特徴が言葉で書かれています。例えば、先端が尖っているとか、細かい毛が生えているとか、ですね。すると、木や葉のどこを見れば区別がつくのか、見方がわかってきます」

タブノキ

最初は名前札がついている木を図鑑で探してみるところから始めてみましょう。(写真はタブノキ)

「それなら…」と、名前札にあった「スダジイ」を図鑑で探してみると、「葉が厚くて、先端が尖る」「葉のふちの上半分に鋭いギザギザがある」「裏側が白かまたは赤銅色」など、特徴がいろいろ。単なる「葉っぱ」に見えていたものが、「スダジイの葉」に見えてきたから不思議です。

「日本の新潟以南における高木層の常緑樹高木は、だいたいシイ、カシ、クスノキの仲間。種類によって似ることはあっても、葉の形はみな違います。まずは葉を観察してみましょう。葉で見分けがつかない場合は、葉のつき方や幹、芽の出方など他の部分で見分けると良いでしょう」

さらに図鑑から「どんぐりの仲間」とわかって木の根元をみれば、どんぐりがいっぱい! 「古代の人や、今でも九州では食べるところもあるんですよ」という福嶋先生。すり潰せば美味しいクッキーにもなるそうです。なんだか「スダジイ」という木を知ったことで、いきなり親しみが湧きました。

「人だって、相手のことを知っているほうが親しみが湧きますよね。1本1本の木の個性が見えてくると、公園歩きがぐっと楽しくなりますよ。私なんて、お気に入りの木には、つい話しかけてしまうんですよ(笑)」

スダジイの葉

裏側が白っぽい銅色なのが特徴のスダジイの葉。木の周辺にはたくさんのどんぐり(椎の実)が落ちていました。

コツをつかんで続々と「絵合わせ」に成功!

先生のアドバイスのもと、次々と名前札を手掛かりに木を観察するうちに少しずつコツがつかめてきました。

例えば、マンションなどの生垣や公園でもよく目にする「トウネズミモチ」。実は中国原産の帰化植物で、日本原産のネズミモチとはそっくり。違いは「裏側を光に透かすと葉脈全体がわかり、葉のふちが透明に見える」というので、実際に確認してみました。やっぱり「トウネズミモチ」!

トウネズミモチ

トウネズミモチ(光に透かすと葉脈が透けて見えるのがトウネズミモチ。透けないのがネズミモチ)。

他にも、赤い花をつけていた「ヤブツバキ」やオス・メスの木があるという「アオキ」、トゲトゲの葉が特徴の「ヒイラギ」、火の神様に供えるという「ヒサカキ」など、次々と絵合わせに成功!

そして、木の高さで目立ったのが「クスノキ」。葉をちょっと傷つけると、虫除けにも使われるという“樟脳”の香りがします。また同じクスノキの仲間の「タブノキ」は、葉っぱではちょっと見分けにくかったものの、枝先についた赤くぷっくりとした芽が特徴的で絵合わせに成功しました。

そして真っ赤に紅葉したこちらの葉。色は変われど、葉の形やつき方、葉脈などで絵合わせすることで「ハゼノキ」と特定することができました。

  • ヤブツバキ
  • アオキ
  • ハゼノキ

絵合わせに成功した植物の一部。ヤブツバキ(左)、アオキ(中央)、ハゼノキ(右)。

絵合わせに成功した植物の一部。ヤブツバキ(上)、アオキ(中央)、ハゼノキ(下)。

どんな季節にもそれぞれに木の楽しみ方がある

続々と葉っぱでの絵合わせに成功して大満足。しかし、ここまででわかったのは、真っ赤に紅葉していたハゼノキを除いて、ほぼ常緑樹ばかり。冬は落葉樹の葉はほとんど落ちて枯れています。公園散策は初夏のほうがいいのでしょうか。

「いいえ、そうともいえませんよ」と先生。「木によってサイクルは異なりますが、だいたい春には新芽や花芽、夏には落葉樹の葉っぱ、秋には実や紅葉というように、春夏秋冬の変化で木を楽しむことができます。寂しげな冬にも冬だけの楽しみ方があるんです。例えば、先ほどのタブノキも春には新芽だけでなく、花芽がつきます。ふっくらと大きくて赤くて、可愛らしいですよね」

促されて「芽」に注目してみると、これもまた個性的。ウロコに覆われたような「アカカシ」の芽、スエードのような灰色のカバーに覆われた「ムラサキシキブ」の芽、「ハゼノキ」はハート型の葉痕の上に小さな芽が出てきています。

「実も面白いので、見比べてみてください。4つに割れたピンクのハート型のマユミの実、サンゴの玉のように赤いサンゴジュの実、トウネズミモチの黒くて丸い粒など、本当に個性豊かです。葉っぱが落ちたユリノキも花が落ちてガクが残っています。花や実、冬芽などで絵合わせできるような図鑑もあるので、季節に合わせて持ち歩くと散策の楽しみが広がると思いますよ」

  • タブノキの花芽

    タブノキの花芽。赤みがかって可愛らしい姿は冬の植物観察の大きな魅力。

  • ユリノキのガク

    ユリノキのガク。素朴ながらどことなく神々しさも感じられる形です。

1本の木から植生を見る、時間の流れを見る

ところで同じ葉を持つ同じ木でも、大きさによって樹皮の様子が違っています。その違いは他の種類と見まごうほど!?

「いいところに気がつきましたね。例えば、タブノキは若いうちはなめらかな表面にイボ状の皮目が目立ち、ポコポコとニキビが出ているようです。それが年をとると、白っぽくガサガサになり、樹皮が剥がれることもあります。木の太さや高さ以外にも、樹皮の様子でだいたいの年齢が当てられるんです」

  • 若いタブノキの樹皮
  • 古いタブノキの樹皮

若いタブノキの樹皮(左)と古いタブノキの樹皮(右)。

若いタブノキの樹皮(上)と古いタブノキの樹皮(下)。

樹木の年齢を見極める方法として、年輪の数を数える方法が一般的に知られていますが、生きている木の場合、樹皮からおおよそ見当がつけられるというわけですね。

さらに1本の木だけでなく、周囲に生えている木々も合わせて「植生」として見てみると、独特なドラマが見えてきます。

「公園などの林は、だいたいが陰樹(日陰でも育成できる木)がはじめから植えられるのですが、陰樹の高木層では、水分を好むタブノキと少し乾いたところが好きなスダジイのせめぎ合いということになります。そして何かの原因でタブノキやスダジイが折れるなどして光が差し込む環境ができると、エノキやハゼノキなどの生育の早い陽樹(陽が十分に当たる場所で育つ木)の落葉樹が割って入ってくるというわけです」

前回、4階層となる植生を紹介しましたが、各高木には、それに対して相性の良い木というものがあります。例えばスダジイには亜高木層にモチノキやヤブツバキ、低木層にアオキ、ヤツデ、マンリョウ、そして草本層にベニシダ、ヤブラン、ヤブコウジなどが生えやすく、タブノキの場合は、亜高木層にはヤブニッケイやヤブツバキ、低木層にアオキ、そして草本層にツワブキ、オニヤブソテツ、イノデなどが生えていることが多いといいます。

「両方と仲良くしながら範囲を広げる木や、隙間をぬって自分の居場所を見出す木など、見ていると面白いですよ。まるで人間の世界のようにも見えてきます」

常緑樹の間に広がるケヤキ

常緑樹の間に広がるケヤキを「太陽の光を求めて、木々の隙間をぬって曲がりながら伸びていますね。あいつも苦労しているんですよ」と先生。まるで人を評するかのよう。

どんな木も「理由があって」そこにある

気候や地形に合わせて生育していく樹木。今は止まって見えるものの、長期的に見れば少しずつ変化しているといいます。

「高山になぜ高山植物が残ったのかといえば、氷河期の名残といわれています。火山の噴火や台風といった自然現象でも植生は大きく変わります。でも、公園や街の木々に最も大きな変化を与える存在といえば、やはり人間が介在していることでしょう。その視点で『その木がなぜそこにあるのか』を考えたり、調べたりするのも楽しいものです」

今回散策した公園は、かつては海に面していた「浜離宮恩賜庭園」。海風を防ぐために潮風に強いタブノキが植えられ、今につながる豊かな森へと育ってきました。

「周りの植生とちょっと雰囲気が違う木には、たいてい人間が関わっています。例えば、園内にある中国原産のトウカエデの5本の大木は、中国から八代将軍吉宗に献上されたものでした」

他にも、公園の所々にはヤシの仲間であるシュロが生えています。江戸時代に植えられたとは考えづらいですが…? 先生の分析によると、「鳥が実を食べ、ここで糞をすることで運ばれてきたのでしょう。ここではシュロ以外にも、トウネズミモチなど近代以降に人や生き物などによって持ち込まれた“インベーダー”がいくつか見られます。どんな木も理由や歴史があってそこにあるわけです。突然ライバルがいなくなったからなのか、動物や鳥に運ばれたのか、誰かが植えたのか。どんな理由であっても、そこで根を張り、頑張って生きている。どんな木にも物語があるのです。ぜひ、図鑑などを通じて、1本の木との対話を楽しんでみてください」

三百年の松

浜離宮恩賜庭園の名物である、江戸幕府第六代将軍家宣の時代に植栽されたという「三百年の松」。

監修の福嶋先生からメッセージ

公園散策の楽しみ方について「木の対話」をテーマに、Web上ガイドウォークでご紹介してきましたが、やはり外に出て、実際に木に触れてこそ、面白さがおわかりいただけると思います。
ご紹介した中で「気になる木」があれば、ぜひとも探しに出かけてみてください。

福嶋司先生

福嶋司先生
東京農工大学名誉教授。理学博士。植生管理学を専門とし、公園や森のガイドウォークを行っている。著書に「カラー版 東京の森を歩く」(講談社現代新書)「日本のすごい森を歩こう」(二見レインボー文庫)など。