がんによって仕事や生活が制限されるようになった場合の公的な支援には、年金として定期的に支給される「障害年金」と一時金として受け取る「障害手当金」とがあります。加入している年金や障害等級などで該当する制度や支給額が異なるので、申請時に相談しましょう。

近藤明美先生

監修:近藤明美先生
近藤社会保険労務士事務所/特定社会保険労務士 キャリアコンサルタント。
(社)CSRプロジェクト(Cancer Survivors Recruiting)にも参画し、長年にわたって、がん経験者の就労相談に取り組んでいる。

がんで障害が残ったときの「生きるための制度」

肺がんの手術や抗がん剤による副作用や後遺症で、仕事や生活に制限を受けるようになった場合の公的なお金による支援には「障害年金」と「障害手当金」があります。

「障害年金」は、初診日*1において厚生年金、国民年金、共済年金のいずれかの、加入している年金制度から「障害年金」という形で定期的にお金を受け取れる制度です。“年金”というと、老齢年金や遺族年金といったように、年をとってからのもののイメージがありますが、「障害年金」は、障害によって働けなくなった“働き世代”のための年金といってよいでしょう。

「障害手当金」は、初診日において厚生年金か共済年金のいずれかに加入している方で初診日から5年以内に治り、3級よりやや程度の軽い障害が残ったときに年金ではなく“一時金”として支給されるものです。かつて共済年金では「障害一時金」と呼ばれた制度がありましたが、2015年から厚生年金と同じ「障害手当金」に統一されています。

*1初診日
障害の原因となった病気やケガについて初めて医師または歯科医師の診療を受けた日

障害年金・障害手当金を受けるための4つの条件

障害年金も障害手当金も、基本的には次の4つの条件(受給要件)が全て満たされた方に支払われます。

1.初診日に年金に加入していること

初診日に、厚生年金、共済年金、国民年金のいずれかに加入している必要があります。障害手当金については、国民年金加入者は対象外です。

  • 障害基礎年金については、日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間の方も対象となります。

2.初診日までに一定割合以上の保険料を支払っていること

初診日のある月の前々月までの公的年金加入期間である2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること。ただし救済措置として、65歳未満であり、初診日の前々月から遡って1年間に未納がない場合は請求できるようになっています。

3.20歳以上65歳未満であること

初診日に20歳以上65歳未満であること。

  • 先天性の障害や20歳以前に障害を負った場合は対象となります。

4.障害認定日に障害認定基準を満たしていること

障害があれば、どんな人でも障害年金や障害手当金を受給できるわけではありません。「障害年金」の場合、初診日から1年6ヵ月を経過した日である「障害認定日」*2に、障害のために働きたくても働けない、日常生活が送れないなど、障害の状態が国が定める障害認定基準を満たしていることが必要です。

*2
20歳以前に初診日がある場合は、20歳の誕生日が初診日となります。
また、手術などを経て病状が固定し、それ以上の治療の効果が期待できないと判断された場合は、1年6ヵ月以内でも障害認定日として認められます。

肺がんや治療の影響による障害に応じて確定

たとえば、在宅酸素療法を行っている場合は、1年6ヵ月の障害認定日を待たずして、療法を開始した日から申請が可能になります。こうした肺がんの影響による、目に見えて明らかな身体機能の障害だけでなく、抗がん剤や放射線治療による倦怠感や気持ち悪さ、しびれ・痛みといった末梢神経障害、貧血や下痢、体重減少といった内的な障害も程度に応じて認められることもあります。

肺がんや治療の影響による障害に応じて確定 考え方としては身体の障害の程度はもちろんですが、生活や仕事への支障を補完することにあるので、「なぜ仕事ができなくなったのか」「どのくらい生活に支障があるのか」など、発病の前後でどれだけ変化があったのか数字や例などで具体的に示すことが大切です。
申請の際にいきなり示せといわれてもなかなか難しいため、日頃からどのような支障があるのか、記録しておくとよいでしょう。

肺がんや治療の影響による障害に応じて確定

全て書類による審査にて、該当する障害年金が決定

障害年金の申請のポイントは、障害年金請求書の他に、「受診状況などの証明書」「医師による診断書」「病歴・就労状況申立書」の3つが重要であり、その他にもいろいろな書類が必要です。特に書類のみの審査になるため、書き方などの要領を熟知した社労士など第三者に委ねるのも一手でしょう。

手続きに必ず必要なもの

年金手帳 提出できないときは、その理由書が必要です
戸籍謄本、戸籍抄本、戸籍の記載事項証明、住民票、住民票の記載事項証明書のいずれか

生年月日について明らかにすることができるもの
受給権発生日以降で提出日から6ヵ月以内に交付されたもの
(事後重症による請求の場合は、請求日以前1ヵ月以内に交付されたもの)

  • 単身の方で、年金請求書に「個人番号(マイナンバー)」を記入された場合は戸籍抄本などの添付は不要です
医師の診断書(所定の様式あり) 障害認定日より3ヵ月以内の現症のもの。
障害認定日と年金請求日が1年以上離れている場合は、直近の診断書(年金請求日前3ヵ月以内の現症のもの)も併せて必要となります。
呼吸器疾患の診断書には、レントゲンフィルムの添付も必要となります。
循環器疾患の診断書には心電図のコピーの添付も必要となります。
受診状況等証明書 初診時の医療機関と診断書を作成した医療機関が異なる場合、初診日の確認のため
病歴・就労状況等
申立書
障害の状態を確認するための補足資料
受取先金融機関の通帳等
(本人名義)
カナ氏名、金融機関名、支店番号、口座番号が記載された部分を含む預金通帳またはキャッシュカード(写しも可)等
請求書に金融機関の証明を受けた場合は添付不要
印鑑 認印可

日本年金機構Webサイトより

障害等級に応じて「年金」か「手当金」を支給

申請が通ると、年金証書と決定通知書が送付され、障害等級が確定されます。受給のための手続きをすれば、受給が開始されます。障害年金は、障害等級と初診日に加入している年金に応じて支給額が決定します。

国民年金に加入している方は、障害等級1級・2級の場合、「障害基礎年金」をそれぞれ受け取ることができます。ただし、3級以下の支給はありません。

厚生年金または共済年金に加入している方は、障害等級1級・2級については基礎年金である「障害基礎年金」に加えて、「障害厚生年金」が上乗せされます。3級は障害厚生年金が支給されますが、1級・2級では支給される配偶者の加給年金額は加算されません。また3級に満たない場合は、一時金として障害手当金が支給されます。

初診日に加入していた年金制度
厚生年金・共済年金
障害の程度 国民年金
1級 1級障害基礎年金
(2級障害基礎年金の1.25倍)

H.30年度で974,125円
1級障害厚生年金
(2級障害厚生年金の1.25倍)
身体機能の障害、または長期間の安静が必要な病状があり、介助なしで日常生活を送れない程度のもの
2級 2級障害基礎年金
(老齢基礎年金と同額)

H.30年度で779,300円
2級障害厚生年金
(報酬比例の年金と同額)
身体機能の障害、または長期間の安静が必要な病状があり、日常生活が著しく困難で仕事に就くことができない程度のもの
3級 - 3級障害厚生年金
(2級障害厚生年金と同額)

最低保障額は
H.30年度で584,500円
身体機能の障害や病状により、仕事に制限が出てしまう程度のもの
それ以下の場合 - 障害手当金
(報酬比例の年金の2年分)

最低保障額は
今年H.30年度で1,169,000円
3級に達しないレベルながら、息苦しさなど生活する上での支障を感じる程度のもの

障害基礎年金額は毎年変動、障害厚生年金額も個々人で異なる

障害基礎年金額は老齢基礎年金と連動しており、毎年変動します。2級障害基礎年金は老齢基礎年金と同額となり、1級障害基礎年金はその1.25倍になります。ちなみに平成30年度の老齢基礎年金は779,300円で、2級障害基礎年金はその同額、1級障害基礎年金は1.25倍の974,125円を受け取れます。

障害厚生年金も報酬比例の年金額と連動し、2級障害厚生年金は報酬比例の年金額と同額、1級障害厚生年金はその1.25倍です。報酬比例の年金額はこれまでの給料(標準報酬月額)や被保険者期間によって一人ひとり異なります。詳細は年金事務所に確認するとよいでしょう。

なお、3級の障害厚生年金も2級と同じように報酬比例の年金と同額ですが、最低保障額が設けられており、報酬比例の年金額がそれを下回る場合、最低保障額(平成30年度で584,500円)が支給額となります。

障害手当金も同様に、報酬比例の年金額が基準となっており、2年分を一時金として支給されます。こちらも最低保障額に満たない場合、最低保障額が支給されます。平成30年度で最低保障額は1,169,000円とまとまった金額ですが、年金のように定期的に支給されるわけではないので、あくまで「働く準備」を整えるためのものと意識するとよいでしょう。

加入年金の種類や障害等級に応じて家族分も加算

障害年金には、家族がいる場合の加算があります。障害基礎年金には子どもがいる場合、人数に応じて加算されます。また、厚生年金・共済年金の加入者には、障害等級1級・2級の障害厚生年金に配偶者(65歳未満)の加給年金額が加算されます。いずれも金額は固定ですが、年額は毎年変更されます。

家族構成に応じた支給

初診日に加入していた年金制度
厚生年金・共済年金
国民年金
障害基礎年金

子どもの加算

H.30年度で224,300円/1人
  • 3人目からは74,800円
障害厚生年金
+
配偶者加給年金

H.30年度で224,300円
制限
  • 18歳になった後の最初の3月31日までの子ども
  • 20歳未満で障害等級1級・2級の障害がある子ども
  • 配偶者が65歳未満である場合に限る

後から障害年金・手当金を受けたくなった場合

なお、肺がん治療から仕事に復帰する方は、戻ってすぐ100%普通に仕事ができると思いがちですが、実際働いてみると身体がきつくて、以前と同じ収入を確保できないといったこともあります。万一、そうした状況に陥った場合には、障害年金については受け取っていない分を申請から5年前の分までさかのぼって受け取れます。障害手当金についても5年以内なら申請すれば認められる可能性もあります。諦めずに申請するためにも、まずは年金事務所に相談してみましょう。