思考のスイッチ

大切な家族が「がん」という診断を受けた場合、家中の誰もがショックを受けます。ご家族は、悲しみに沈む一方で、息抜きをしながらも、患者さんを支えて元気づけなければなりません。

一緒に治療法を模索し、治療期間には寄り添っていく中でご家族が陥りやすい思考について、それぞれの「思考のスイッチ」の切り替え=考え方の修正(認知行動療法)をしていきましょう。

告知直後~治療開始

家族ががんと告げられ、頭の中が真っ白になり、何も考えられない

何も考えられなくなるのは「正常な心理過程」です。
立ち直ったら、患者さんの心理段階が追いつくのを
待っていてあげてください。

がんの告知後にはまず、頭の中が真っ白になり何も考えられない「衝撃の段階」がやってきます。患者さん本人だけでなく、ご家族もまったく同じ段階が始まります。患者さんの場合にはこのあと、黙りこくったり家族とも話さなくなるような「防御的退行」という段階に移行する方もいますが、ご家族は患者さんご本人よりも早く立ち直ることが多いので、その場合は患者さんの心理過程を見守ってあげてください。患者さんにはこの「防御的退行」のあと、泣いたり叫んだり、興奮したりする段階がくるので、それに備えてください。

ご家族は、患者さんの心理段階よりも一歩も二歩も先んじていることが多いので、その場合は患者さんの心理過程が進むのを待っていてあげてください。

私が落ち込んでいる場合ではない、がんばらなくてはと思う

落ち込んでしまうのは自然なことです。
冷静で客観的な視点も意識しましょう。

ご家族が患者さん同様に落ち込んでしまうのは仕方ありません。それが自然です。大事なことは、そこから早めに「冷静な視点」に戻っていただきたいのです。

だからといって、「落ち込んでいる場合ではない、がんばらなくては!」と張り切りすぎるのは不自然です。患者さんが泣くときには、一緒に泣いてしまっても構いません。でもそのときにも「冷静な視点」で患者さんの言動を見守ってあげてください。この時期の患者さんは元気になったかと思うとその夜は泣いてしまったり、前向きの発言があったかと思うと翌日にはネガティブになってしまうものです。それを見守る「冷静な視点」を保つように心がけてみてください。

一緒に落ち込むのは自然ではありますが、できれば医師から聞いた病気について調べ、どのような治療法があるのかなど客観的な視点で病気を考え、今後の治療に向けた準備をしておきましょう。

今後の治療方針を患者本人と話し合う勇気がない

客観的な視点で病気について調べておくことで、
患者さんを支えましょう。

あなたは患者さん本人ではありません。しかし、ご家族ががんになったという危機状況にあるのは確かです。一緒に落ち込んでもよいのですが、患者さんが納得して治療を受けるためにも一緒に説明を受けた病気について、どのような病院でどのような治療法が行われているのかなど、客観的な視点で調べておきましょう。

同じ病気やステージでも、「標準治療」だけでなく、さまざまな考え方があるので、興味がある治療法を行っている病院があれば、セカンドオピニオンの相談先としてチェックしておくのもよいでしょう。

一家の大黒柱が働けなくなったら、生活していけるのか不安

がん治療と仕事を両立している人も多いです。
また、利用できるサポート制度も早い段階で調べておきましょう。

患者さんが一家のたったひとりの大黒柱の場合、「がんにかかること」イコール「経済的な打撃」であることは確かです。生活していけるのか不安だと思うのも当然です。

しかし、現在の医療技術下では、がんの治療と仕事を両立している人も多いです。その可能性については、早い段階であなたから主治医に質問するのもよいでしょう。患者さん本人はわからないことばかりで、まだ混乱している段階ですから。

また、医療保険によっては仕事を休職する場合に利用できる「傷病手当金制度」や、検査費や治療費を軽減してくれる「高額療養費制度」もあります。そのほか、保険、福祉、社会資源などについても早い段階からがん相談支援センターなどで相談できます。

受けられる可能性がある支援制度を確認する

がん相談支援センターを探す

これまでの生活の何がいけなかったのか?自分の責任かもしれないと思ってしまう

原因について思い悩むよりも、
がんになった意味を一緒に考えてみるほうが有意義です。

がんを告げられた初期には、患者さんもご家族も「これまでの生活の何がいけなかったのか?」と原因について思い悩むことがあります。ご家族には「自分の責任かもしれない」という自責感が加わります。

しかし、がんの原因はさまざまで、どんなに考えても「あれが原因だ」と明確なことは滅多にありません。がんは遺伝、大気汚染、食事、運動、生活習慣、嗜好品、職場のストレス、家族関係、性格など無数の因子のいくつかが組み合わさって生じる「多因子疾患」ですので、原因を探すことには意味がありません。

むしろ、人生のこの時期にがんになった「意味」について一緒に考えてみるほうが有意義です。「家族一丸になって立ち向かえ」という意味かもしれませんし、「ひと休みして仕事について考える」という意味かもしれません。

本人が病気のことを話してくれないので、様子がわからなくて不安に思う

本人が話せるようになるまで少し待ってみましょう。
診察の付き添いを提案したり、
「ひとりで抱え込まないで」と伝えることも有効です。

がん患者さん本人は、ひとりで戦闘モードに入っている場合や、まだ方針を決めかねていて話す段階ではない場合などに、ご家族には話せない状況になります。

本人が話したいと思うまで、待ってみるのもひとつの方法です。1週間以上経ったら長すぎるので、「どうしたの?」とたずねてみてください。

そして、次の診察には家族として付き添うことを提案してみましょう。その際、役割分担して、主治医に対する質問をふたりで準備しておきましょう。

ひとりで戦闘モードに入っていると思われる場合には、「私たち家族みんなでこの病気を乗り越えましょう。だからひとりだけで抱え込まないで」というのも有効な発言です。

いずれにしても、ご家族も、患者さんや医療者と同様に医療チームの立派な一員であることを伝えましょう。

大切な人を亡くすことを考えると、悲しくて涙が止まらない

涙を流すのにはまだ早すぎることが多いです。
現状を客観的にとらえて、
患者さんを支えていこうじゃありませんか。

ご家族のメンバーのひとりが「がん」と告知された瞬間、患者さん本人だけでなくご家族全員の頭の中を「死」という言葉がよぎります。でも、誰もそれを口にする人はいません。心の奥底に秘めてしまうものです(抑圧)。

いつかこの大切な家族がいなくなる、死んでしまうことを考えると、悲しくて涙が止まらないという状況のことを、専門的には「予期悲嘆」と呼びます。実際に患者さんが亡くなった後の状況は「悲嘆」といいますが、この「予期悲嘆」は患者さんががんを告知されてから治療中も、一時期改善した場合でも、あるいは再発した場合でも、ずっと心の底に流れているものです。告知されたときからですから、とても長い間、この「予期悲嘆」に苦しめられるのですが、まだ涙を流すのは早すぎる場合のほうが多いです。ここは、現状を客観的にとらえ、前向きに治療に向かう患者さんを支えていこうじゃありませんか。

民間療法の誘惑に負けそうになる

「民間療法」と「補完療法」は異なります。
「補完療法」は標準治療をしながらでも
受けられる場合があるので、主治医と相談しましょう。

がん患者さんのご家族は「予期悲嘆」の中にあり、誰か親しいご友人などに相談することがよくあります。自分自身の心のケアを求めて、話を聞いていただくわけです。

相談されたご友人は「何とか力になってあげよう」と思い、その結果として、キノコやサプリメントなど民間療法の話が出てきてしまうことがあります。このような誘惑は、最初だけではなくずっと続きます。「最初は無料で」という高額な民間療法への導入もあります。

主治医の行う「標準医療」は、専門の学会などが定めたガイドラインで示された最善の治療法です。民間療法の中には、現在行っている標準治療の邪魔をするものもあります。開始する前に必ず主治医に相談しましょう。

補完代替療法について知る

治療中

一番つらいのは本人なので、自分はいつも明るくいなければいけないと思う

無理に明るくしなくても、
「いつも通りの生活」を維持するだけで十分です。
つらいときは、ご友人や専門家に気持ちを聞いてもらいましょう。

がん患者さんがつらいのは当然ですが、ご家族も特殊なつらい状況にあります。それは、「患者的側面」と「治療者的側面」という矛盾するふたつの役割を課せられているからです。前者は「いつかはこの大切な家族を失い、傷つくだろう」という「予期悲嘆」の状況をいいます。それでいて、後者のように明るい態度で患者さんをがんばらせる役割も課せられているのです。後者の場合、「自分はいつも明るくいなければ」と自分を責め立てることになってしまいます。

けれども、ご家族が無理に明るくしていなくても、いつも患者さんのそばにいて「いつも通りの生活」を維持することで十分なのです。

このような複雑な状況でつらくなったときには、ご友人や専門家にいまの気持ちを聞いてもらうことも必要です。

精神的に追い詰めれられて以前の生活ができなくなった

「以前の生活に戻る」ことよりも、
「いま」「これから」について考えましょう。

「精神的に追い詰められる」という場合には、気持ちを立て直すことが必要です。追い詰められていると、誤った結論を出してしまうこともあるからです。「以前の生活に戻る」という考えにこだわっていると、新しい現実を正しく認識して適切な行動を取ることができなくなってしまう可能性もあります。

「いま、ここで」が大事で、「これから」について考える必要があります。

患者がきつく当たってきてつらい

患者さんはつらい症状や状況に怒っているのであって、
あなたに怒っているのではありません。

すべてのがん患者さんには「なぜ自分ががんにならなければいけないんだ」という、どこに向けたらよいのかわからない「怒り」があります。この怒りをどの方向に向けるかによって、外側から見える患者さんの言動は正反対に見えることさえあります。それを「怒りの表現型」と呼んでいます。

まず、その怒りが患者さん本人に向かう場合には「なぜもっと早く病院に行かなかったんだろう」とか「なぜ定期検診を受けなかったんだろう」と、「自責感」や「後悔」として現れます。逆に、この怒りが周囲に向かう場合には、家族に八つ当たりしたり、医療者、たとえば点滴をしてくれる看護師に向かって「あなた点滴下手ねえ」という言動が見られたりします。

患者さんがあなたにきつく当たっている場合には、あなたのことが嫌いでそうしているわけでは決してなく、自分のつらい症状や、いまの状況に怒っているのです。

患者さんにとって「健康的な怒りの発散」ができるように、ときどき、気分転換できるようなカラオケや家族のイベントを考えてみてはどうでしょうか。

自分がやりたいことをやることに、罪悪感がある

がんは長期戦、無理な我慢は長続きしません。
あなたが元気なことは、患者さんにとってもよいことです。

がん患者さんが闘病していたり副作用で苦しんでいるときには、ご家族がそれとは関係のないことをする際には複雑な気持ちが生じます。自分がやりたいことをやる場合には、ときに「罪悪感」さえ感じてしまうようです。

しかし、がん治療は長期戦です。周囲が無理をして我慢していても、長続きはしません。ご家族が一緒になって苦しい気持ちを共感するのは大事ですが、ずっと続けていれば、ご家族のほうが「共感疲労」に陥ってしまいます。

自分のために時間を使うのは悪いことではありません。あなたが休息がとれて、元気で満たされていることは患者さんにとってもよいことですし、患者さん本人も同じ気持ちだと思います。

ほかの家族の協力が得られない。自分だけががんばっているようでつらい

家族でも、言葉にしないと伝わりません。
やってほしいことを具体的にお願いしてみましょう。

がん患者のご家族といっても、みなさんが同じだけ患者さんのために力を注いでいるわけではないと思います。ですから、自分だけががんばっているようでつらい気持ちになることも十分に考えられます。

ほかの家族の協力が得られない場合には、具体的に「○○をしてちょうだい」とお願いしたほうが簡単に解決することも多いようです。家族といえども、やはり言葉にして伝えなければわからないことも多いです。

小さいお子さんの場合でも、病気のことをわかりやすく伝えたほうがよい場合が多いです。子どもは「何かが起こっている」ことには気づいているので、お仲間に入っていただきましょう。

この先、どのくらい治療費がかかるのだろうか

さまざまなサポート制度があります。
がん相談支援センターやソーシャルワーカーと
相談してみましょう。

がんの診断のためには詳細な検査が必要で、1割負担、3割負担などさまざまな保険が適用になる場合が多いのですが、やはり複数件になるとかなりの高額になる可能性もあります。治療が始まると、手術や入院、抗がん剤の治療費などによって、医療費はさらに高額になってしまいます。

患者さんご本人が仕事を休む場合には保険によっては「傷病手当金」がありますし、年収や年齢にもよりますが、毎月の医療費の自己負担額が1カ月で一定額を超えた場合には「高額療養費制度」が使えます。また、患者さんの年代や病気のステージによっては介護保険制度も活用できます。

病気にならないと知らない制度はたくさんありますが、調べてもなかなか探せない場合が多いので、ぜひがん相談支援センターや相談室などに相談してみましょう。

受けられる可能性がある支援制度を確認する

がん相談支援センターを探す

治療後~経過観察中

いつ再発、転移するかと考えると不安で仕方がない

まずは目の前の患者さんと一緒に過ごせていることを
よろこびましょう。再発した場合のことは、
そのときに考えても遅くありません。

がん患者さんだけでなくご家族にとっても「いつ再発・転移するかと考えると不安で仕方がない」と思うのは当たり前のことです。必要以上の心配をしてしまうものです。

まずは、目の前のご家族(患者さん)と一緒に過ごせていることをよろこびましょう。これからの毎日毎日が貴重な日々に思えますし、それが長く続いてほしいと願いましょう。 心配していればそれだけ再発のリスクが減るのならば、いまから考えておくのも意味がありますが、そんな医学研究はありません。再発してしまっても、それはそのときに考えても手遅れではありません。「再発したらしたで、『そのときの私』にまかせようと思っています」と話してくれた患者さんもいます。

患者の不調の訴えのひとつひとつが気になってしまう

症状から再発を心配することにあまり意味はありません。
しっかり聞いてあげた上で、
症状が続くようなら次の診察で医師に相談してみましょう。

体の症状について敏感で、少しの症状でもそれを心配してしまう状態を「心気的」といいます。がん患者さんがやや心気的な方の場合、不調についていちいち口に出す可能性があります。その訴えのひとつひとつが、ご家族にとっては気になってしまうのです。

ご家族がその症状のひとつひとつに対して、腰椎に転移した?肝臓に転移した?などと心配することはあまり意味がありません。しかし、心気的な患者さんの言葉を聞かないと繰り返してしまうので、しっかり聞いてあげてください。そして「今度の受診日についていくので、私から言ってあげようか?」といった対応をしてください。

このような不調を口にするのは一時的で、訴えは変わっていくことが多いと思ってください。

再発・転移

再発したら、治療法はないのだろうか

標準治療の道はどこまでも続いています。

がんが見つかり、手術や放射線・抗がん剤などの初期治療が終わると、一旦、経過観察期間になります(※維持療法を行うこともあります)。その安心したころに患者さんの再発・転移を告げられると、ご家族も大きなショックを受けます。「とうとう再発!もう死ぬのを待つしかない」とすぐに諦めてしまう方がいますが、それは大きな誤解です。ここからがんの本当の治療が始まるのです。

その後の治療は、薬物療法が中心となります。最近は、分子標的薬や抗がん剤、免疫チェックポイント阻害剤など様々な薬剤が開発され、使えるようになっています。

とにかく、がんは「絶望さえしなければ大丈夫」です。1日でも長生きすれば新薬の可能性が増えると思って、患者さんがここからの治療をがんばれるようサポートしてあげてください。そのためには、情報を集めることも必要です。

またつらい治療を続けさせるのかと思うと、家族としてもつらい

一度患者さんの気持ちを聞いてみてから、
ご自身の気持ちを含めて主治医に相談してみましょう。

再発・転移がわかったとき、また患者さんにつらい治療を続けさせるのかと思うと、ご家族としてのつらいお気持ちはよくわかります。「がんばってね」という気持ちがあっても、それを口にするのも憚ってしまいます。「もうがんばってきたんだけど、まだがんばらなければいけないの」という患者さんからの答えが想像できるからです。

そんなときには、こころのケアを担当している精神腫瘍医や心理士にも相談してみましょう。

また、患者さんには緩和ケア科でも診てもらうように説得し、同意が得られたら主治医にお願いしてみましょう。主治医に相談して、一旦治療をお休みすることも選択肢として考えられます。

再発後の治療中~緩和ケア

毎日、今日が最期の日かもしれないと思うと怖い

こんなときだからこそ「どのような最期を迎えたいのか」
を患者さんと話し合ってみてください。

再発したあとも抗がん剤の治療が続きますが、それも長期になると、ご家族は「間もなく治療手段がなくなる」とか「今日が最期の日かもしれない」と思い不安な日々を送るようになります。

このようなときに死について語り合うことは、悪くないどころか重要なテーマです。特に、どのような最期を迎えたいのかは患者さんにとって、もっとも大切なテーマだと思ってください。在宅で最期を迎えるのか、あるいは病院の緩和ケア病棟がいいのかなどです。もちろん、ホスピスや緩和ケア病棟での最期を希望する場合には、いまのうちに受診して、先方に最期のときの入院をお願いしておかなければいけません。

ただ、あまりに重いテーマなので、緩和ケア医や精神腫瘍医を交えてご家族全員でカウンセリングを受けられるよう主治医に相談してみてもよいでしょう。

本人は家で過ごすことを望んでいるのに、入院してくれたほうが安心だと思ってしまう

今後どう過ごすのかを患者さんとしっかり話し合い、
それを実現する方法を具体的に考えましょう。

どのような最期を迎えたいのかは患者さんにとってもっとも大切なテーマだと思ってください。在宅で最期を迎えるのか、あるいは病院の緩和ケア病棟がよいのかなどです。本人は家で最期を過ごすことを望んでいるのに、ご家族は入院してくれたほうが安心だと思ってしまう場合、徹底的に話し合う必要があります。

がん患者さんの多くが最期の時間は家で過ごしたいと思っているようです。ご家族の負担を減らし、どこまで社会資源を使えるのかは早め早めに調べておきましょう。

訪問診療、訪問看護、訪問介護などはどこにお願いするのかまで具体的に検討しておきましょう。365日24時間で対応してくれる訪問看護ステーションは重要なサービスになります。患者さんと看護師との相性も大事な要素になります。

介護保険制度も使い、ご家族の負担を軽減しましょう。代行サービスなどを使うのもよいでしょう。訪問看護ステーションなどを通して在宅で看取った方から話を聞くのも、安心材料になりますね。

いずれも、がん相談支援センターや相談室などに相談することができます。

緩和ケア病棟を探す

がん相談支援センターを探す

本人は積極的な治療を望んでいないのに、家族としてはがんばって治療して、生きていてほしいと思ってしまう

本人の気持ちを大事にしてあげましょう。
希望を叶えるためのお手伝いをしてあげてください。

家族としてはがんばって治療して生きていてほしいと思っているのに、がん患者さん本人は積極的な治療を望んでいないこともあります。この場合、患者さんが「うつ病」などで積極性がなくなっているのかどうかも判断しなければなりません。担当医に「うつ病」の可能性についても質問してください。

その上で、積極的な治療をしたくないという本人の気持ちをゆっくり聞いてみましょう。基本的には、本人の気持ちを大事にしてあげましょう。

痛みなどの緩和ケアは十分に施し、残された時間、本人がやりたいことをする時間にしてあげましょう。整理したいものや連絡したい方もいらっしゃるかと思いますので、お手伝いしてあげてください。

在宅で最期を迎えるのか、あるいは病院の緩和ケア病棟がよいのかは話し合いましたか?後者の場合、緩和ケア病棟やホスピスの見学は済みましたか?

緩和ケア病棟を探す

看取り後

生前、何もしてあげられなかったのではないかと自分を責めてしまう

どのような看取りをした場合でも、
自分を責めてしまうことが多いです。
逆に「やってあげられたこと」を書き出してみましょう。

患者さんを看取ったあと、ご家族の中には「生前、十分ではなかったのではないか?」とか「何もしてあげられなかったのではないか?」と自責的になる方は多いです。どのような看取りをした場合でも、遺族の方はご自分を責めてしまうものです。この自責感は、大切な人の死を受け入れるための「グリーフワーク(悲嘆の作業)」の入り口で、誰もが経験するものです。

その場合、まず、生前やってあげられたことを書き出すなどしてみましょう。実際には、思っていたよりもやってあげられていたという場合が多いです。それを明確にして、「自己肯定感」を高めてください。また、患者会などで看取りを経験したご家族と話してみましょう。それらのすべてが、グリーフワークに繋がっていきます。

家族がいなくなり、自分は何のために生きていくのかわからない

多くの方が半年から1年くらいはつらい気持ちを持ってしまうようです。
少しずつでいいので、ぜひ前を向いてあなたの人生を生きていってください。

グリーフワークの医学研究によれば、大切な人を亡くした直後は残された遺族が死亡したり病気になったりするリスクが高まることがわかっています

そのため、ご家族を亡くしてから1年間は、身近な人たちでお互いの健康をモニターしましょう。

ご家族がいなくなり、自分は何のために生きているのかと自問することも多いかもしれません。落ち込みがひどいときはうつ病の可能性もあるので、精神腫瘍科、精神科、心療内科などを受診したり、カウンセリングを受けたりしてみましょう。

少しずつでいいので、ぜひ前を向いてあなたの人生を生きていってください。

  • ※ 大西秀樹ほか:心身医学. 2014 ; 54(1): 45-52.