思考のスイッチ

「がん」という診断を受けた場合、当然、誰もがショックを受けるでしょう。しかし、そのあとには病気を受容して、治療法を模索し、長い治療期間を迎えていくことになります。

治療法を模索し、治療を進めていく中で患者さんが陥りやすい思考について、それぞれの「思考のスイッチ」の切り替え=考え方の修正(認知行動療法)をしていきましょう。

告知直後~治療開始

がんと告げられ、頭の中が真っ白になり、何も考えられない

何も考えられなくなるのは「正常な心理過程」です。
考えられるようになるまで待ってみましょう。

この段階は「衝撃の段階」とも呼ばれ、誰もが通過する心理過程です。あとから振り返って「あのときは頭の中が真っ白だった」「どうやって帰ったのか覚えていない」ということが多いです。一般的に、この段階は数時間から数日以内で通過していきます。あまりにも大きな衝撃でこれ以上は直視できないという場合には、黙りこくったり家族とも話さなくなるような「防御的退行」という段階に移行します。

これらは「正常な心理過程」であり、この直後から感情的に不安定な時期がやってくることになります。

自分ががんになったなんて認めたくない

いまは認めたくない気持ちが強くても、
少しずつ病気と向き合えるようになっていくはずです。

「がんだと認めたくない」と思う一方で、「やっぱり、そうだったのか!」という気持ちもあるのではないかと思います。前者は「否認」、後者は「受容」という心理過程です。がんと告げられたあとの患者さんの心理は、この「否認」と「受容」の間を波線を描くように行ったり来たりしながら、徐々に「受容」に向かっていきます。やがて病気を真正面から認めて受容して、「どのようなステージで、どのような治療法があるのか」などを真剣に考えるようになります。

ネガティブな思考のループから抜けられない

夢中になれることを見つけて、
脳のネガティブな働きを止めてしまいましょう。

私たちの脳はもともと「ネクラ」な臓器だと思ってください。放っておいたらネガティブ思考になってしまうのです。

ここから抜け出すには、まずは脳の働きを止めてしまいましょう。夢中になれることをしていると、脳はそちらのほうが楽しくなって、ネガティブ思考は止まります。趣味があればよいのですが、「お風呂場のタイル磨き」や「引き出しの整理」なども好評です。
次に、「脳の中に自分自身はいない」と考え、脳のネガティブ思考に支配されないでください。脳は、所詮は「考える臓器」に過ぎません。主体は「脳」ではなく、「あなた自身」です。

急に短期間で治療法などの重大なことを決めなければいけなくなり、何からどう考えたらよいのかわからない

まずは医師の説明を正しく理解するために、
誰かに一緒に聞いてもらいましょう。
主治医以外の話を聞いてみるのもよいかもしれません。

考える順番を明確にすることが大切です。まずは、医師からの説明を正しく理解しましょう。できれば、ひとりではなく、ご家族やご友人と一緒に説明を聞くのがよいでしょう。次に、そのがんには、どのような治療法があるのか調べてみましょう。がん診療連携拠点病院にある「がん相談支援センター」も相談に乗ってくれます。

そして、この時点の自分の考えをまとめてご家族の意見を聞いてみたり、主治医にも伝えてみましょう。このタイミングでセカンドオピニオンを求めるのも正しい行動です。

がん相談支援センターを探す

情報が多すぎて、何を信じたらよいのかわからない

やみくもに情報収集するのではなく、
担当医や国立がん研究センターの「がん情報サービス」など
信頼性の高い情報を利用しましょう。

がんを診断した担当医の意見が一番正しいわけではありませんが、インターネットで情報を探したり、自分と同じ病気の方のブログを読み始めると、ますますわからなくなってしまいます。手術が怖い方は、「手術はしなくても治る」などの情報に飛びついてしまいがちです。

インターネットの情報であれば、国立がん研究センター「がん情報サービス」やがん診療連携拠点病院のホームページなどからは、確かな医療情報が得られます。また、がん診療連携拠点病院にある「がん相談支援センター」は、その病院に通院している患者さんでなくても面接を通して相談に乗ってくれます。

がん相談支援センターを探す

がんになってしまったから、もう仕事は続けられない

がんはもう「不治の病」ではありません。
がん治療と仕事を両立している人もたくさんいらっしゃいます。

がんと告げられた患者さんの中には、「もう仕事はできない」「会社に迷惑をかける」などと考え、急いで退職届を出してしまう方がいます。しかし、がん治療にはお金もかかりますし、がん治療後、あるいはがん治療中でも、仕事に復帰したり継続することは可能です。

いまや、がんは不治の病ではありません。また、がん患者さんやご家族だけが孤立してがん治療に取り組むのではなく、患者さんの職場や会社、社会全体が一緒になって、がん治療に協力してくれる時代になりました。

実際に、がん治療と仕事を両立している人はたくさんいるので、まずは主治医に相談したり、会社の制度について調べてみたりしましょう。

職場にはがんであることを知られたくない

がんであることを全員に伝える必要はありませんが、
がん治療と仕事を両立させるために、
直属の上司やチームの人には伝えておきましょう。

職場にがんであることを知られたくないという気持ちはよくわかりますが、がん治療と仕事を両立していくためには、やはり職場や会社の協力が不可欠です。全員に伝える必要はありませんが、少なくとも直属の上司やチームの人に伝えることは、治療との両立ににおいて必要です。

まず、上司には1対1のふたりだけの環境で話してみてください。チームの複数名が相手の場合には、「私の個人情報としてお知らせしますが…」と切り出しましょう。あなたが医師からがんを告げられた時と同じく、相手が驚くことも想定しておきましょう。

最初は驚いて、あなたにとってはショックな反応をされてしまうこともあるかもしれませんが、「治療が始まると休みがちになるので迷惑をかけるかもしれない」こと、「仕事を続けたい」ことをはっきり伝えれば、職場の方は理解して協力してくれるはずです。

主治医の説明がよく理解できない

メモや録音を活用してたくさん質問しましょう。
複数人で説明を受けることも効果的です

主治医の説明がわからない場合には、いくつかの原因があります。まず、医師の説明の仕方が拙いこともあります。その場合には、メモを取ったり、許可を得て録音をしながら、何度でも質問してください。次に、患者さん側の「否認」という心理機制が強く、耳から入ってこないこともあります。冷静さを保つために、ご家族やご友人とともに複数名で説明を受けることも効果があります。

わかりにくい医学用語はインターネットでも調べることができます。また、がん診療拠点病院にある「がん相談支援センター」は、その病院に通院している患者さん以外でも相談できるので、質問に訪れることもよいでしょう。

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医師の治療方針に納得できない

セカンドオピニオン、
サードオピニオンをとってみるのもひとつの手です。

がんであると診断した医師はこの段階ではまだ必ずしも主治医ではないので、提示された治療方針にすぐには納得できないこともあると思います。通常は、がんの種類やステージによって、ベストな治療法を提示されるはずです。専門の学会などが定めたガイドラインに示された治療法を「標準治療」といいますが、「標準」とは「並の」という意味ではなく、「最善の治療法」を意味しています。

しかし、それでも病院や医師によっては勧められる治療が異なる場合もあるので、十分に納得がいかない場合にはセカンドオピニオンやサードオピニオンをとってみてはいかがでしょうか。ひと昔前なら「医師の機嫌を損ねる」ので言い出しづらいという方がたくさんいましたが、いまや「セカンドオピニオンやサードオピニオンを申し出ることは当たり前のこと」くらいに思ってください。

変に気を遣われるのが嫌で、病気のことを誰にも言えない

全員に伝える必要はありません。
一緒に病気と向き合ってくれる、
大切な人には伝えておきましょう。

「私、がんなんです」と究極の個人情報を告げられた周囲の方は、「信頼されているんだ」というよろこびを通り越して、「何をしてあげればいいのか」「何と言ってあげればいいのか」などと、逆に重荷になってしまう場合もあるようです。だから「変に気を遣われるのが嫌で病気のことを誰にも言えない」のも一理ありますが、言われた相手の方も悪気はなく、精一杯対応してくださっている結果なのだろうと思います。

そのようなこともあるので、周囲の全員に伝える必要はありません。ただ、長い治療期間になるので、大切な人には伝えて、一緒に向き合ってもらいましょう。情緒的に救ってくれる人と実際的な助けをしてくれる人、それぞれ2、3名いるのが理想です。

民間療法の誘惑に負けそうになる

民間療法の誘惑はこのあともずっと続きます。
周囲にも相談して、冷静な判断をこころがけましょう。

検査をした結果、がんであることを告げた医師は、まずは学会などが決めた「標準治療」を勧めます。この「標準」とは「並の」という意味ではなく、「最善の治療法」を意味しています。しかし、この時点の患者さんやご家族は、必ずしも誰もが冷静な判断ができるわけではありません。「できれば手術以外の方法で」とか「できればサプリメントで」という気持ちが入り込んできます。それが、民間療法の誘惑です。

この誘惑は、最初だけではなくずっと続きます。高額の場合もあるので、必ず周囲の方にも相談して、実際の効果を考えてみましょう。また、民間療法の中には現在行っている治療の邪魔をするものもあります。開始する前に必ず主治医に相談しましょう。

補完代替療法について知る

治療中

検査や受診の費用がかさむだけでもつらいのに、高額な治療費なんて払えない

がん相談支援センターに相談して、
高額療養費制度などの保険制度を利用しましょう。

がんの診断のためには詳細な検査が必要で、保険適用の場合でも複数件になるとかなりの高額になる可能性もあります。治療が始まると、手術や入院、抗がん剤の治療費などによって、医療費はさらに高額になります。

その際に利用できる高額療養費制度やそのほかの健康保険の制度を知っておきましょう。高額療養費制度とは、医療費の自己負担額が1カ月で一定額を超えた場合に、超えた金額分が支給される制度です。金額は年齢と所得によって決まります。
このような制度については、がん相談支援センターや相談室などに相談してみましょう。

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申し訳なく感じて、家族につらい気持ちを打ち明けられない

まずは一度でもよいので、
お互いの考えを伝えあう時間を持ちましょう。

長い治療が始まると、次第に家族間での会話が少なくなることがあります。このような「家族間の沈黙」の背景には、患者さん側からの思いと、家族側からの思いの相互作用があります。患者さんは「がんになって、家族のために何もできなくなって申し訳ない」と思い、家族側は「何とか助けてあげたいが、実際に何をしてあげたらよいのかわからない」と思うため、お互いに黙り込んでしまうことがあるようです。

そんなときには、一度、お互いが考えていることを正直に打ち明け合う時間を持つことで解決していくことが多いようです。

心配されるのが嫌で、つらい気持ちを打ち明けられない

家族以外にも、
頼ったり助け合ったりする場はたくさんあります。

「心配されるのが嫌だから」という理由で、つらい気持ちを打ち明けられないという患者さんがいます。これまでも人に頼らずに生きてきた方に多いように思います。家族に対しても、友人に対しても頼りたくないようなのです。
「何らかの意味があって今回の病気になった」と考えると、もしかしたら、そういう方は「誰かに頼る」「誰かに甘える」というスキルを磨くチャンスを与えられたのかもしれません。

家族や友人ばかりに頼る必要はなく、同じ病気の患者会、がんサロン、ピアサポーターなど、いまの時代には頼ったり助け合ったりする場がたくさんあります。

主治医があまり説明してくれない、言っていることがよくわからないので不安になる

主治医から「わかっている」と思われているのかもしれません。
メモや録音を活用して積極的に質問してみましょう。

「主治医があまり説明してくれない」と、患者さんやご家族からよく聞きます。主治医が忙しいこともあるかと思いますが、質問がないので「この患者さんたちはわかっているんだ」と思われている可能性があります。ですから、聞きたい質問については前日からメモをして用意しておきましょう。

また、医師の説明の仕方がわかりにくいことも実際にはあるでしょう。その場合にはメモを取ったり、(許可を得て)録音をしながら、何度でも質問してください。ご家族やご友人とともに複数名で説明を受けることも効果があります。

次に、医師はちゃんと説明しているのに、患者さん側の「否認」という心理機制が強くて、耳から入ってこないこともあります。この場合も、複数名で説明を受けることが効果的です。

わかりにくい医学用語はインターネットでも調べることはできます。また、がん診療連携拠点病院にある「がん相談支援センター」は、その病院に通院している患者さん以外でも相談できるので、質問に訪れるのもよいでしょう。

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主治医とのコミュニケーションがうまくいかず、診察に行くたびに落ち込む

看護師にも協力してもらい、
きちんと考えを伝えられる関係性を構築しましょう。

いったん治療が始まると、主治医との長いお付き合いが始まります。そのときに主治医とのコミュニケーションがうまくいかないことは大きなストレスになります。診察に行くたびに、逆に落ち込んでしまう患者さんもいるくらいです。

がん患者さんには、自分の気持ちや考えを抑圧する傾向が強い方が多く、「いい人」といわれる人が多いようです。しかし、「ものわかりのよい患者」を演じる必要はありません。わからないことは「わからない」、嫌なことは「イヤ」と言える関係性を構築する努力をしましょう。

主治医に伝えにくい場合は、外来の看護師に不安な気持ちや自分の気持ちを素直に伝えてみるのもよいでしょう。看護師はそれぞれの医師の性格を知っていることも多いので、先生とのコミュニケーションのコツを教えてもらえるかもしれません。

主治医とどうも馬が合わないような気がする

どうしても相性がよくない場合、
医師や病院を変えることもできます。
がん相談支援センターに相談してみましょう。

いろいろ努力しても、主治医と「どうも馬が合わない」という場合もあるでしょう。この場合には、まずは看護師に相談してみましょう。医師の性格や行動特性を知っているので、よい関係性を作る「妙技」を教えてくれるかもしれません。

同じ診療科に複数の医師がいる場合には、思い切って別の医師にかかってみたいことを看護師に相談してみるのもよいと思います。

その方法がとれない場合には、思い切って転院することを考えてみてもよいかもしれません。がんの治療は長いので、主治医とのよい関係性が重要になるからです。この場合には、「セカンドオピニオン」を申し出ることが正しい行動です。セカンドオピニオンの方法は「がん相談支援センター」でも相談に乗ってくれます。

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抗がん剤治療により髪が抜けると、周りに病気のことを知られてしまいそうで不安

ご家族や患者会に相談する、あらかじめウィッグと合わせた
髪型にしてお披露目しておくなどの方法があります。

抗がん剤治療を受ける際、患者さんがもっとも気にするのが、この「脱毛」です。急にウィッグをつけると、周囲は驚いたり「がんかもしれない」とうわさしたりすることがあるようです。

まずはご家族に不安や心配を伝えましょう。あなたの不安や心配をやわらげようと、寄り添ってくれるやさしいご家族は多いです。

自分の髪型をショートヘアにして周囲にお披露目しておき、近い髪型のウィッグを美容室で自分の髪型に合わせてもらってから抗がん剤治療を開始すると、大きな変化がなく、周りも気づきにくいかもしれません。

患者会などに出かけると先輩の患者さんがいるので、よい方法を教えてくれるはずです。

痛いし、薬の副作用がつらいから、何もしたくない

痛みや副作用は我慢せずに医師に伝えましょう。
緩和ケアはがんの末期だけに行うものではありません。

がん患者さんにとって一番つらいこととして、痛みと抗がん剤の副作用としての嘔気や痺れ・歩行困難などがあります。結果的に、心が傷つき、「何もしたくない」「治療も受けたくない」という方もいるくらいです。

これらの苦痛への対策は「緩和ケア」といわれますが、緩和ケアは決してがんの末期を意味する言葉ではありません。

まず、痛みは我慢してはいけません。コントロールしてもらいましょう。がんによる痛み(がん性疼痛)のほとんどはコントロールが可能です。抗がん剤には嘔気が連想されますが、ステロイド剤の点滴やほかの薬の内服などで緩和されることが多いです。

痺れやそれに伴う歩行困難に関しても、主治医に正確に伝えましょう。薬の量を変えたり一時中断したり、ほかの薬に切り替えたりといった方法があります。日本人は我慢強い患者さんが多いのですが、医療者からはわかりにくい主観的な症状もあるので、正確に伝えることが大切です。

体力が落ちて何もできなくなってしまった

まずは好きなものを食べたり、
やりたいこと・できることを始めてみましょう。
目標を立てるのも効果的です。

抗がん剤の治療が長く続くと体力が落ちてしまい、一日中横になっていて何もできなくなってしまったと感じる患者さんも多いです。

大好きなものを食べて、まずは体力を取り戻しましょう。足の筋肉はすぐに萎縮(廃用性萎縮)してしまうので、できるかぎり歩いてみましょう。毎日の目標を決めるのもよいでしょう。「来年は○○をやりたいので、それまでには歩けるようになろう」と中期目標を立てるのもおすすめです。

まずはやりたいことや、できることから始めてみましょう。周囲の方はみなさん助けてくれるはずです。

家族の手前、「がんと闘わなればならない」と思うとつらい

必ずしも「がんと闘わなければならない」わけではありません。
がんとうまく付き合っていくことを考えましょう。

昔の研究では「ファイティング・スピリット」を持っているがん患者さんが一番長生きするといわれていたので、1980~1990年代はがん患者さんをがんばらせていたことがありました。しかし、その後の研究で、必ずしも闘う必要はないこともわかっています。いまでは「がんとの向き合い方は人それぞれ違うので、それぞれの病気への向き合い方を大事にしてあげよう」という方向に医療は変わってきました。ですから、「家族の手前」や、医療者のために「がんと闘わなればならない」と思う必要はありません。

「がんと共存する」、「がんという病気とうまく付き合っていく」という考え方が大事です。

治療後~経過観察中

いつ再発、転移するのか、不安でたまらない

現実は「最悪のシナリオ」よりベターです。
再発のことは、再発してから考えても遅くありません。

手術や放射線・抗がん剤などの初期治療が終わると、一旦、経過観察期間になります(※維持療法を行うこともあります)。3~6カ月ごとに腫瘍マーカーや画像検査で様子を見る段階ですが、この期間に「いつ再発や転移をするのか不安でたまらない」気持ちになる人が多いようです。それは心配ですよね。

そんな場合、逆説的ですが、「一度、徹底的に心配して『最悪のシナリオ』を考えてみましょう」とお話しすることがあります。患者さんは恐る恐る、その最悪のシナリオをお話ししてくださいますが、それが終わったら「よかったですね。現実は、それよりはベターですから安心してください」と励まします。

再発や転移は、いま考えて心配する必要はありません。再発してしまったら、それは「そのときの自分」にまかせましょう。

ちょっとした不調が再発や転移によるものではないかと不安になってしまう

いつもと違うようなら、早めに医師に伝えて相談しましょう。

たとえば、腰痛があると「骨に転移したのではないか?」、少し息切れがしたら「肺に転移したのではないか?」など、ちょっとした不調が再発や転移によるものではないかと不安になってしまう患者さんは多いです。

この場合、「大丈夫ですよ」と否定も、「そうかもしれない」と肯定もしません。次の診察が数カ月後であっても、多くの場合、そのときに主治医に報告しても遅すぎることはありません。あるいは、それまでにその不調も消えてしまうかもしれません。

もちろん、いつもとは違う強い痛みやひどい息切れが生じた場合は、予約日を前倒しして受診してみましょう。

以前の仕事、職場に戻れるか心配

上司や産業医に不安を正直に伝えて、
仕事内容などを調整してもらいましょう。

一定の治療が終了した時点で、そろそろ復職のことを考えましょう。そのときに「以前の仕事や職場に戻れるか心配」と考える患者さんは多いです。

まずは、職場の上司に現状の報告と相談をしましょう。その際に、どのくらいまで体力が回復しているのかなども打ち明け、場合によっては仕事の内容を軽いものからリハビリ的に増やしていく、その機会に仕事内容を変えてもらうなどの対応をしてもらえるようお願いできるとよいですね。その際、職場の産業医との面談も有効です。産業医が職場に対して提案をしてくれると、より自然な流れになるでしょう。

復職の日はかなり緊張しますが、同じ部署の方にも感謝の気持ちを伝えましょう。

インターネットや患者会などで、同じがん患者さんの体験談を参考にしてみるのもよいでしょう。

再発・転移

手術もできないし、もう死ぬのを待つしかない

ステージ4のがん患者さんでも、
5年以上生きている人はたくさんいらっしゃいます。
長い付き合いを覚悟して、踏ん張って治療を続けましょう。

再発・転移を告げられたときに「とうとう再発か!もう死ぬのを待つしかない」とすぐに諦めてしまう方がいますが、それは大きな誤解です。ここから、がんの本当の治療が始まるのです。

10年前の患者さんの5年生存率などが公表されていますが、それによると、たとえば遠隔転移のある「ステージ4」のがん患者さんでさえも、5年以上生きている人はたくさんいます。さらに、その後の10年間でかなり優れた抗がん剤が開発され、認可されています。がんは「絶望さえしなければ大丈夫」です。1日でも長生きすれば新薬の可能性が増えると思い、ここから踏ん張って治療を続けてください。

がんは「慢性疾患」と考え、長い付き合いをしていきましょう。

主治医の言う通りに治療したのに再発してしまった。主治医の言うことが信じられない

まだ標準治療の道は続いています。
新しい治療法も見つかるかもしれません。

再発や転移がわかった患者さんが「主治医の言う通りに治療したのに再発した。もう主治医の言うことが信じられない。ついていけない」と思うこともあるようですが、主治医は患者さんと同じくらい、「この治療で治ってほしい」と願っていたので、再発を知って患者さんと同様にショックを受けています。そんな気持ちを抑えて「では次の治療をがんばりましょう」と励ますはずです。

再発・転移したあとも、標準治療(専門の学会などが定めたガイドラインが示す「最善の治療法」)の道は続いています。まだ治療中だと考えましょう。抗がん剤も、何種類かが順番に控えています。それが「標準治療」なのです。

また、がんの治療法は日々進歩しているので、1日でも長生きすれば、薬以外のものも含めて新しい治療法が見つかる可能性もあります。

生きる気力がなくなってしまった

うつ病の可能性もあります。
主治医と相談して、適切な治療を受けてください。

再発がわかっても前向きにがんばっていたのに、あるとき生きる気力がなくなってしまったという場合には、うつ病の可能性もあることを知っておいてください。

うつ病は神経伝達物質であるセロトニンなどが欠乏することで起こると考えられています。「抑うつ気分」「興味または喜びの喪失」のいずれかと食欲減退、不眠、思考力・集中力の低下などの症状が2週間以上ほとんど毎日続く場合に「うつ病(大うつ病性障害)」と診断されることがあります

もちろん、適切な薬物療法で治るので、主治医に伝えて紹介状を書いてもらい、精神腫瘍科・心療内科・精神科などを受診してください。

  • ※ American Psychiatric Association(高橋三郎ほか訳), DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル, 医学書院

再発後の治療中~緩和ケア

どんな最期を迎えるのだろうと考えると怖い

まずは医師やご友人など信頼できる人に、
ご自分の考えを伝えてみてください。

再発してからの治療も長く続くと「どんな最期を迎えるのだろうか」とボンヤリ考えることが多くなり、怖くなる患者さんも多いです。

まずは信頼できる人(主治医、家族、ご友人など)にいまの気持ちを話してみましょう。年配の信頼できる方でもよいでしょう。もちろん、緩和ケア医や精神腫瘍医も話し相手になります。

この時期から、宗教や哲学やスピリチュアリティに関心を持つ方もおり、そのような本を読んで救われる方も多いようです。また、ステージ4でも元気に過ごしている人の体験談などを読んでみるのもよいでしょう。何か生きるヒントをいただけると思います。

「がん末期の痛み」を思うと怖くてしかたがない

緩和ケアで痛みはコントロールできるようになりました。
痛みが出る前の段階での緩和ケア科受診を主治医に
相談してみてください。

「がん末期の痛み」については、がんと診断されたときから一度ならず考えたことがあると思います。がん患者は最期には痛みで七転八倒しながら死んでいくというドラマや、数十年前に見た医療の場をおぼろげに思い出すので、「痛み」=「恐怖」になっているのだと思います。

しかし、麻薬性の鎮痛剤への抵抗感があった時代の反省から、いまは「緩和ケア」が充実して、新しい鎮痛剤が開発されたり、投与法に工夫がなされてきました。昔の疼痛緩和とはまったく異なる緩和ケアによって、身体的な苦痛はほぼコントロールできる時代になりました。

意外に知られていないことですが、まだ痛みなどの症状が出ていないうちに一度緩和ケア科を受診してみると、とても安心すると思います。まずは主治医に緩和ケア科の受診について相談してみてはいかがでしょうか。主治医に相談しにくい場合には、がん相談支援センターにも相談できます。

緩和ケア病棟を探す

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もう治療することに疲れてきた

積極的な治療をしないことも患者さんの権利です。
緩和ケア病棟を見学したり、
自分の最期について相談してみましょう。

抗がん剤の治療も長く続くと「もう治療することに疲れてきた」という患者さんはいます。うつ病ではなくてもこの時期にはこのような発言をされる方がいます。うつ病による発言でないとした場合、その患者さんの言葉の意味は重いです。

積極的な治療をしないことも患者さんの権利ですから、その気持ちを尊重してもよいと思います。少しの期間、治療を休んでみてもよいかもしれません。

この時期に緩和ケア病棟やホスピスを見学してみるのも安心材料になります。できればもっと早い時期に、緩和ケア科を受診してカルテを作っておいてもらいましょう。

また、最期は自宅で、と希望される患者さんは、ご家族とも話し合ってください。実際の方策は、がん相談支援センターや相談室などが教えてくれます。

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残された時間を病院で過ごすのではなく、家族と過ごしたい

ご自身の気持ちを大事にしてください。
具体的な方策はがん相談支援センターに相談できます。

抗がん剤の種類も残り少なくなったり、その副作用で本当の自分自身が失われそうに思う患者さんは、残された時間を病院で過ごすのではなく、もっと家族など大切な人との時間を持ちたいと思うようになります。どこで最期を迎えたいかは、人生で最後の大問題です。ご家族と一緒にいる時間を多く持ち、自宅で孫に会ったり、昔の友人たちのお見舞いを受けたりする時間はとても大切なのです。

このような場を作るためには、地域のがん専門の往診医を探したり、365日24時間すぐに対応してくれる訪問看護ステーションを探す必要があります。がん相談支援センターや相談室などは、患者さんのお住まいの地域で在宅医療を提供してくれる医療機関のリストを持っています。医師との関係性がとても重要なので、納得できる医師に出会うまでぜひ何軒か受診していただきたいと思います。

こうして在宅で多くの時間をご家族と過ごし、本当に最期の数日間だけ病院の緩和ケア病棟を利用する方もいらっしゃいます。

一方で、緩和ケア病棟でも、家族が過ごしやすい仕組みや環境を整えている施設が多くあります。家族との時間を多く持てる緩和ケア病棟に入りたいというご希望をがん相談支援センターで伝えてみるのもよいかもしれません。

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