市民公開講座 - 2023年11月開催(東京・オンライン)

パネルディスカッション1

3.術後補助療法の前後で困ったこと

※治療経験については、患者さん個人の経験やご意見ですので、すべての方が同様の結果を示すわけではありません。


■参加者の皆さん

  • 安藤 恵美子 さん

    《司会》

    安藤 恵美子 さん

    ワンステップ会員

  • 長谷川 一男 さん

    《患者》

    長谷川 一男 さん

    ワンステップ理事長(代表)

  • 花田 満美 さん

    《患者》

    花田 満美 さん

    ワンステップ会員

  • おけい さん

    《患者》

    おけい さん

    ワンステップ会員

  • 善家 義貴 先生

    《医師》

    善家 義貴 先生

    国立がん研究センター東病院
    呼吸器内科 医長

  • 河原 陽介 先生

    《薬剤師》

    河原 陽介 先生

    JR東京総合病院
    薬剤部 外来化学療法室担当薬剤師


患者さんは術後補助療法の前後でどのようなことで困っているのか?

安藤:それでは、パネルディスカッション1を始めます。花田さん、早速ですが、術後補助化学療法(以下、術後補助療法)の経験などについてお話しいただけますか。

花田 満美 さん

花田:3年ほど前に肺がんと診断されました。手術後にステージIIIAと判定され、先生から術後補助療法について説明され、受けるかどうかを1週間後までにご自身で選択してくださいといわれました。私は肺がんと診断されてからもわりと楽観的に考えていて何の知識もなかったので、どうすべきかよくわからなかったのですが、とにかく後悔はしたくないと思い、受けることにしました。その後3ヵ月ほど仕事を休み、4クールの術後補助療法を受けました。治療の最後のほうで胸膜転移をしてステージIVになり、現在は分子標的薬で治療を続けています。

安藤:術後補助療法の前後で困ったことはありましたか。

花田:困ったことは大きく2つあり、まずは術後補助療法をするかしないかの判断です。何の知識もなかったため、何を基準に考えたらよいのか戸惑いました。2つ目は、胸膜転移をする前にかなり痛みがひどくなったことです。調子が悪いことを病院に電話で連絡しても、そのつらさが伝わらず、助けを得る手段をなかなか得られず困りました。

主治医は術後補助療法をどのように考え、説明しているのか?

安藤:善家先生、今のお話を聞かれて何かご助言があればお願いします。

善家 義貴 先生

善家:お気持ちはよくわかります。当初は軽く考えていて手術後にステージIIIだったといわれると、だれでも戸惑うと思います。しかし、それが肺がんの特徴で、リンパ節に転移があるかどうかも、手術をしてみないとわからないことがよくあります。しかも、いきなりステージIIIだったといわれても、それがどういうことなのか理解できないでしょうし、そこに立て続けに術後補助療法を受けましょうといわれても、そもそも話が頭に入ってこないと思います。けれども、ステージは術後補助療法を考える上での大事なポイントで、特にステージIIIでは術後補助療法の効果がステージIやIIよりも高いと考えられています1)。そのため、ステージIIIとわかった時点で我々医療者は術後補助療法を勧めることになります。
術後補助療法の一番難しいところは、目で見える病変は手術ですべて取り除かれているので、そのあとの抗がん剤治療の必要性については、その時点ではわからないことです。副作用も想定されるので、無理におこなうことではないと思っていますが、私は、まずは受けてみませんかとお話ししています。つらければ、いつでもやめることはできます。
主治医や薬剤師の先生方と十分に話し合い、納得した上でおこなうことが術後補助療法の大原則です。いずれにしても、我々が術後補助療法のお話をするのは、皆様を思ってのことだということはご理解いただきたいと思います。

安藤:河原先生は花田さんのお話をお聞きになって、どのように思われましたか。

河原 陽介 先生

河原:花田さんと同じように、ほとんどの患者さんが治療選択に関する意思決定で迷われます。そこで我々薬剤師は、治療薬の特徴だけでなく、投薬のスケジュールなどもていねいに説明し、少しでも不安を軽くしてあげられるように努めています。患者さんからのご相談への対応については、薬剤師だけでなく看護師もおこないます。迷っていることや先生にはいえないようなことがあれば、薬剤師や看護師に躊躇せず相談していただきたいと思います。

術後補助療法はどのようなときに中止したほうがよいのか?

安藤:本日は、おけいさんという患者さんもリモートで参加されています。先生方に質問があればお願いします。

おけい さん

おけい:私は昨年、肺がんと診断されて手術を受け、ステージIIIといわれました。EGFR阻害薬を術後補助療法で使う場合は、服用期間が決められていると聞いています。私は、効果があるなら服用し続けたいと思っていますが、途中で辞めるという場合もあるのでしょうか。また、EGFR阻害薬の副作用と有効性の関連はあるのでしょうか。この2点について教えてください。

善家:まず1つ目ですが、いろいろな事情で途中でやめられる方もおられます。ただそのときに、決まった服用期間しっかりと飲み切ることによるメリットについてよく話し合い、ご自身にとってのメリットとデメリットをよく考えることが重要です。2つ目の有効性と副作用の関連については、過去にたくさん研究もおこなわれていますが、副作用が強く出た人がより高い効果を得られるというわけではありません。効果と副作用には個人差があり、今のところ両者にはあまり関連はなさそうだと考えられています。

術後補助療法における抗がん剤治療は何サイクルおこなったほうがよいのか?

花田:善家先生は先ほど、術後補助療法は途中でやめてもかまわないとおっしゃっていましたが、私は昭和の根性世代ですのでやめることは敗北のように感じます。ですから、副作用はとてもつらかったのですが、なかなか自分からはやめるといえませんでした。それはどのように先生と相談すればよかったのでしょうか。

善家:術後補助療法における抗がん剤治療は3サイクルまたは4サイクルおこないますが、何サイクル頑張れるかは患者さんご自身の体力や気持ちによるところがあります。医学的に中止したほうがよいと判断すれば中止をおすすめしますが、患者さんがあくまで続けたいとおっしゃれば、では頑張りましょうとむしろ支援するのが我々の考え方です。ただ、臨床試験に限ればほぼすべて4サイクルで検討されているので、4サイクルが基本にはなるかと思います。

術後補助療法における抗がん剤治療は何サイクルおこなったほうがよいのか?
  • 1)日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2023年版, 金原出版株式会社

2023年11月19日市民公開講座当時の内容です。