市民公開講座 - 2023年11月開催(東京・オンライン)

パネルディスカッション2

4.参加して実感する患者会のありがたさ


■参加者の皆さん

  • 安藤 恵美子 さん

    《司会》

    安藤 恵美子 さん

    ワンステップ会員

  • 長谷川 一男 さん

    《患者》

    長谷川 一男 さん

    ワンステップ理事長(代表)

  • 花田 満美 さん

    《患者》

    花田 満美 さん

    ワンステップ会員

  • おけい さん

    《患者》

    おけい さん

    ワンステップ会員


安藤:患者会についてのディスカッションを始めたいと思います。初めに、「ワンステップ」の長谷川理事長に、患者会とはどのようなところなのかをご紹介いただきたいと思います。

患者会「ワンステップ」では何をしているのか?

長谷川:日本には、肺がんの患者会が北は北海道から南は鹿児島まで16もあります(図1)が、患者会はどのような場所でおこなわれているのでしょうか。病院や市民センターのような公の場所がまず思い浮かびますが、現在はインターネット上でも開催されており、リモートで日本全国の患者さんやそのご家族に出会えるようになっています。特に新型コロナウイルス感染症の流行により、患者会もオンラインでおこなうことが多くなりました。インターネットですから自宅だけでなく、外出先からも参加できます。また、スマートフォンでも参加できるので、病院に入院しているときにも患者会のみなさんにお会いできます。

図1

近藤明美先生
長谷川 一男 さん

患者会では何をしているのかといえば、おしゃべりです。おしゃべりは何がよいのでしょう。「私、隣に家族や同僚がいても、ずっと自分だけ違う世界にいるような気がしていました。でも、1人じゃないと思いました」。これは、患者会でよく聞かれる言葉です。このように思ってくださる方がとても多くおられます。“仲間の力”とでもいえばよいのかもしれません。不思議ですが、特に何もしなくても、同じ境遇の人がただ横にいるだけで力になる、そんな力が仲間にはあると思います。不安や孤立感が軽減されたり、同じ境遇の人と共感したりすることができることが、患者会の意義のひとつです。

生きることを諦めないロールモデルとの出会いもある

長谷川:私たちの患者会「ワンステップ」では、治療の情報などを紹介したり共有したりしています。また、「ロールモデルとの出会い」を提供する役割もあります。たとえば、ある30代の女性患者さんは、自分らしく生きることを諦めない「さくらさん」という人と患者会で出会いました。さくらさんは「バイクで日本縦断しているんだ、北海道から出発して今、香川まで来たとこなんだよ」などと元気に日々を楽しんでおられました。ところがその後、がんが再燃し、バイクに乗れなくなってしまいました。それでも、さくらさんはくじけていません。「具合が悪くなってバイクにも乗れなくなって、できないことは増えているけれど、週に1回だけカフェでバリスタを始めたんだ。前からやりたかったんだよ」とのこと。コーヒーが好きなさくらさんは新たな楽しみとして、カフェでアルバイトを始めたわけです。この話に先述した女性患者さんはもちろん、患者会のリーダーも驚きました。好きなことができなくなっても、次にできることを始めていることに驚いたのです。自分の人生を諦めない人、自分らしく生きることを諦めない人、そうしたロールモデルとの出会いが患者会にはあります。
ほかにも、ケント君というメンバーは、自分のドライバー遺伝子の状況を把握し、足りないと思ったら先生と交渉して再検査をしたそうです。まさに彼も積極的に生きるロールモデルです。

国や学会、医療関係者の方への働きかけもおこなっている

長谷川 一男 さん

長谷川:患者会は、社会や医療に対して声を上げていく役割も果たしています。患者会では今年の春、約300人のメンバーに「何が困りましたか」というアンケート調査(肺がん患者における価値観や治療における困りごとに関するアンケート調査)をおこないました(図2)。その1位は「気持ちのつらさ」でした。つまり不安が強い、気持ちが弱くなったということです。2位は「治療の決め方、意思決定」でした。それに続く3位は「お金」でした。アンケート調査では、みなさんがいろいろなことで困っていることがわかりました。そこで、「ワンステップ」としての国や学会、肺がん治療に携わっていらっしゃる医療関係者の方などへの働きかけとして、今年の秋に開かれた日本肺癌学会学術集会で、アンケートの結果を発表させていただきました。
患者会には、不安や孤立感の軽減、同じ境遇の人との共感、情報交換、ロールモデルとの出会いなどの役割があります(図3)。興味がありましたら、ぜひ参加していただきたいと思います。

図2

図2

図3

図3

患者会に参加してよかったと思えたことやうれしかった出来事は?

安藤:ただいまのお話の中で、患者会には素敵な出会いもあることが紹介されました。そこで、本日ご参加いただいたお2人のパネラーの方に、患者会での出会いやうれしかった出来事など、お話しいただきたいと思います。まずおけいさんからお願いします。

おけい さん

おけい:私は去年の秋、患者会に会員登録しました。そのときは手術をすでに終えており、術後補助療法が始まっていました。病院への通院の回数は減ったのですが、自分のメンタルがなかなか上向かないので、メンタルをなんとかしなければならないと思っていました。幸いにも、インターネットで患者会があることを知り、何かおしゃべりができるのかなと思って参加しました。
実際に参加してみると、日ごろ家族にもいえないようなことをみなさんが話してくれました。自分もその場ではいろいろとお話ができるので、本当にほっとした気持ちになりました。その会はずっと継続する会ではなかったので再びインターネットで探したのですが、地元では見つかりませんでした。そんなとき、オンラインでいろいろと活動されている「ワンステップ」を見つけ、参加させていただいた次第です。

安藤:私たちがお気持ちの整理にお役に立てていればうれしいです。花田さんはいかがですか。

花田 満美 さん

花田:患者会に入ってよかったと思えることは3つあります。1つ目は、本当に深い共感を得られる方がいることです。2つ目は先生方の話など、正しい情報を得られることです。そして3つ目は、真の仲間ができたと思えることです。私は約2年半前にステージIVに進行し、初めて落ち込みました。それでもまだ生きられると思って生きたらよいのか、あと少ししか生きられないと思いながら生きたらよいのかと思い悩み、とても落ち込んだのです。
そうしたなかで「ワンステップ」に入ることになりました。私は当初、患者会は怖くて怪しい団体だと思っていたのですが、私の主治医の先生が「ワンステップ」で話をされているのを見て、きっと怪しいところではないのだと思うようになりました。それで勇気を持って参加し続けたのですが、それが私にとっては本当に救いでした。少しずつみなさんとお話ししていくなかで気持ちが元気になっていくことを感じ、今はもう感謝しかありません。

オープンな形で先生方のアドバイスもいただける場になっている

安藤:長谷川さん、パネラーのお2人のお話を聞かれて、患者会は目指すべき方向に進んでいると思ってもよろしいですか。

長谷川:とてもありがたいですね。「ワンステップ」では勇気という言葉をよく使いますが、そこにつながる方向に進んでいるように思いました。

おけい さん

安藤:ありがとうございます。私自身も患者の1人です。最初に参加したときは知識もありませんし、初めてお会いする方ばかりなので、疎外感や孤立感も強く感じていました。それでも2回、3回と繰り返し参加することで、ようやくいろいろな方とお話しできるようになりました。正しい情報を自分自身で見つけることは容易ではないので、こうしたオープンな形で先生方のアドバイスもいただきながら情報収集ができる場があることは、とてもありがたいことだと思っています。本日は、貴重な体験談やアドバイスをいただき、本当にありがとうございました。

2023年11月19日市民公開講座当時の内容です。