肺がんと遺伝子変異の関係

日本における肺がん罹患数は、2015年の推定で、133,500人とされており1)、非小細胞肺がんの患者さんは肺がん全体の約80〜85%を占めます2)。非小細胞肺がんには原因となるような遺伝子異常が知られています。EGFR遺伝子やALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子がその代表ですが、これらの遺伝子異常は両親から遺伝されるものではなく、お子さんに受け継がれるものでもありません。がん細胞だけにみられる異常です。

代表的な遺伝子と遺伝子変異とは?

EGFRは、がん細胞が増殖するのに必要な信号を細胞内に伝えるタンパク質で、がん細胞の表面にたくさん発現していることが多く、このタンパク質からの信号が細胞内に伝わるとがん細胞が増殖します。
EGFR遺伝子変異は、欧米人よりも日本人の非小細胞肺がんの患者さんに多く、全体の30〜40%に認められます。

ALK融合遺伝子とは、何らかの原因によりALK遺伝子と他の遺伝子が融合することでできる特殊な遺伝子のことです。ALK融合遺伝子があると、この遺伝子からできるタンパク質によってがん細胞を増殖させるスイッチが常にONになった状態になります。ALK融合遺伝子が発見される頻度は非小細胞肺がんの約3~5%です。

ROS1融合遺伝子は、ROS1遺伝子とさまざまな遺伝子が融合したものです。この組み合わさったROS1融合遺伝子からできるタンパク質により、がん細胞を増殖させるスイッチが入り、がん細胞が限りなく増殖してしまう働きがあることがわかってきました。
ROS1融合遺伝子が発見される頻度は非小細胞肺がんの約1~2%です。

BRAF遺伝子変異は、細胞増殖を促す信号の通り道であるRAS/BRAF/MEK/ERK経路の途中にあるBRAFという分子の遺伝子が変異したものです。特にV600E変異が非小細胞肺がんの発生と増殖に関係しています。BRAF V600E変異の発見される頻度は、非小細胞肺がんの約1~3%です。

遺伝子検査の普及

日本肺癌学会では、肺癌診療ガイドライン2018年版のなかで、EGFR遺伝子検査は、非小細胞肺癌におけるEGFR-TKI治療の適応を決定するために行うよう勧められると記載し、EGFR遺伝子変異の検査を推奨しています。遺伝子変異検査において同学会では「肺癌患者におけるEGFR遺伝子変異検査の解説」(2009年11月改訂)、「肺癌患者におけるEGFR遺伝子変異検査の手引き」(2016年12月改訂)、「肺癌患者におけるBRAF遺伝子検査の手引き」(2018年4月)を作成し、EGFR遺伝子変異検査、BRAF遺伝子変異検査の普及、標準化に努めています。

一方、融合遺伝子の検査も普及しつつあります。
日本肺癌学会では、肺癌診療ガイドライン2018年版のなかで「ALK遺伝子検査は、ALK阻害剤による治療の適否を決定するために行うよう勧められる」と記載し、ALK融合遺伝子の検査をグレードAで推奨しています。融合遺伝子検査において同学会では「肺癌患者におけるALK融合遺伝子検査の手引き」(2015年9月改訂)、「肺癌患者におけるROS1融合遺伝子検査の手引き」(2017年4月)を作成し、その標準的な手順を示しています。

これらの検査は、患者さん一人ひとりに最も適した治療法を検討するうえで欠かせない検査です。非小細胞肺がんと診断され、薬剤による治療を行うことになった場合には、遺伝子の変異を調べることで、最も適した治療法を選択することができます。

治療薬や治療法について

遺伝子検査により、それぞれの遺伝子変異に応じた薬剤を使って治療を行います。

進行期の肺がん患者さんでEGFR遺伝子変異が見つかったらEGFR阻害剤、ALK融合遺伝子またはROS1融合遺伝子が見つかったらALK阻害剤を使用します。また、BRAF V600E変異が見つかったらBRAF阻害剤とMEK阻害剤を一緒に投与します。MEK阻害剤とは、細胞の増殖を促す信号の通り道であるRAS/BRAF/MEK/ERK経路の途中にあるMEKという分子の働きを阻害する薬剤で、BRAF阻害剤と一緒に投与することにより、がんを小さくする効果が高まります。

これらの遺伝子変異が見つからなかったら、従来から使用されている抗がん剤を使って治療を行います。

  1. 1)
    国立がん研究センターがん対策情報センター、がん情報サービス「がん登録・統計」
  2. 2)
    国立がん研究センターがん対策情報センター、がん情報サービス「がん診療連携 拠点病院院内がん登録(2013年全国集計 報告書)」