肺がんに対する薬剤選択のための検査
ご自身の肺がんに合う薬剤を選ぶための情報を得る
肺がんに関する遺伝子の変異
肺がん(非小細胞肺がん)と診断された場合、がんの増殖や転移等にかかわる遺伝子変異の有無を調べる遺伝子検査をおこなうのが一般的です。検査をおこなう遺伝子の種類にはEGFR遺伝子変異やBRAF遺伝子変異、またALK融合遺伝子やROS1融合遺伝子、RET融合遺伝子、MET遺伝子、NTRK融合遺伝子、KRAS遺伝子、HER2遺伝子等があります。そして、EGFR遺伝子変異やBRAF遺伝子変異が認められれば、EGFRまたはBRAFを治療標的とした分子標的薬(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)またはBRAF/MEK阻害薬)の治療を、ALK融合遺伝子またはROS1融合遺伝子が認められれば、ALK融合タンパク質またはROS1融合タンパク質を治療標的とした分子標的薬(ALK阻害薬またはROS1阻害薬)、RET融合遺伝子が認められればRET融合タンパク質を標的とした分子標的薬(RET阻害薬)、MET遺伝子が認められればMETタンパク質を標的とした分子標的薬(MET阻害薬)、NTRK融合遺伝子が作り出すTRK融合タンパク質を標的とした分子標的薬(TRK阻害薬)、KRAS遺伝子変異が認められればKRAS G12Cタンパク質を標的とした分子標的薬(KRAS G12C阻害薬)、HER2遺伝子変異が認められればHER2タンパク質を標的とした分子標的薬(抗HER2薬)の治療を検討することになります。
遺伝子検査の方法
胸部単純X線写真や胸部CT検査で影があり、がんが疑われる場合には、気管支の中を観察する検査(気管支鏡)や痰にがん細胞が混じっていないかを調べる検査(喀痰細胞診)等を実施し、肺がんが疑われる部位から細胞や組織を採取する病理検査をおこない、本当にがんかどうかを確認します。これを確定診断といいます。肺がんはタイプによっても治療法が異なりますから、非小細胞肺がんかどうかを確認することも重要です。
肺がんの遺伝子変異検査は、この確定診断のために採取した検体を用いて同時におこなうことが多く、その場合には新たに検体を採取することはありません。これらの遺伝子検査は保険で認められています。
また近年、がん治療として免疫チェックポイント阻害薬での治療が注目されており、その中でPD-1、PD-L1という物質が着目されています。肺癌診療ガイドライン2024年版において、他の遺伝子検査とともにPD-L1検査もおこない、その結果にもとづいて治療戦略を考えることが記されています。
なお、PD-L1検査は保険で認められています。
さらに、さまざまな遺伝子の検査項目を、優先順位を付けずに同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」があります。がん遺伝子パネル検査は、最近は血液でも検査できるようになりました。しかし、この検査を受けられるのは国が指定したがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院に限られます。現在受診しているのがこれらの指定病院ではない場合でも、各地域の指定病院で検査を受けることは可能です。検査を受けるかどうか、受けるタイミングや、どの病院で受けるか等は、担当の先生とよく相談してください。
参考:
・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2024年版, 金原出版株式会社
・日本肺癌学会編:患者さんと家族のための肺がんガイドブック2024年WEB版
・国立がん研究センターがん情報サービス
監修:日本医科大学 呼吸器・腫瘍内科学分野
教授 笠原寿郎先生
2019年2月掲載/2025年4月更新