免疫療法

肺がんの免疫療法と免疫チェックポイント阻害薬:作用と副作用

免疫療法は、がん細胞による免疫の抑制を解除して、患者さん自身がもつ免疫の力を使ってがん細胞の攻撃を促す治療法です。そのうちの1つ、免疫チェックポイント阻害薬による治療は、肺がんをはじめ、多くのがん種で承認され、医療保険が適用されています。

肺癌診療ガイドライン2022年版によれば、肺がんの治療に使われる免疫チェックポイント阻害薬は、非小細胞肺がんでは抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体、進展型小細胞肺がんでは抗PD-L1抗体と呼ばれる薬剤です。
非小細胞肺がんでは進行・再発のⅣ期の患者さんの治療に用いられます。また、Ⅲ期の患者さんに対しても、がんが限られた範囲にとどまっていない場合で手術が適さない場合、根治を目指した治療として、根治的化学放射線療法の後に最大12カ月間用いられます。
進展型小細胞肺がんの患者さんに対しては、化学療法(抗がん剤)に免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療がおこなわれています。
免疫チェックポイント阻害療法以外にもいくつかの「免疫療法」がありますが、肺がんに対する治療効果は認められていません。科学的な方法で効果が証明されている治療法だけが国から承認を受け、医療保険が適用されています。

免疫チェックポイント阻害薬のメカニズム

現在、免疫チェックポイント阻害薬には抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体がありますが、ここでは抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体のメカニズムを説明します。
免疫の主役ともいうべきT細胞は、がん細胞に特有のタンパク質を認識すると活性化し、そのタンパク質を発現しているがん細胞を攻撃します。一方でT細胞には免疫の働きが過剰になるのを抑えるために、PD-1という受容体が備わっており、そこにPD-L1という物質が結合すると、T細胞の活性は低下し、がん細胞への攻撃をやめてしまいます。がん細胞の中にはPD-L1を発現して、T細胞の攻撃から逃避して生き延びるものができてきます。抗PD-1抗体はT細胞に発現したPD-1に、抗PD-L1抗体はがん細胞に発現したPD-L1に直接結合し、がん細胞による免疫の抑制を解除します。
このように抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体はT細胞のPD-1とがん細胞のPD-L1の結合を防ぎ、T細胞の活性を維持し、がん細胞を排除しようとする薬剤です。

免疫チェックポイント阻害薬のメカニズム

免疫細胞にブレーキがかかる仕組み

参考:
・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2022年版, 金原出版株式会社
・日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2022年版, 金原出版株式会社

進展型小細胞肺がんへの免疫チェックポイント阻害薬

これまで化学療法(抗がん剤)のみで行われてきた進展型小細胞肺がんの薬物療法ですが、2019年8月から一部の免疫チェックポイント阻害薬が保険適用になりました。

進展型小細胞肺がんの場合、免疫チェックポイント阻害薬は、従来から使われている化学療法(抗がん剤)と組み合わせて、点滴注射で投与します。

患者さんの体調などによって、化学療法のみ、あるいは免疫チェックポイント阻害剤との併用で治療が行われますので、主治医とよく相談しましょう。

参考:
・国立がん研究センターがん情報サービス
・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2022年版, 金原出版株式会社

免疫療法で起きやすい副作用

本来、人間の免疫の働きは、弱すぎないよう、そして強すぎないように体内で制御されています。免疫療法は、がん患者さんの弱まっている免疫の働きを高めてがん細胞を攻撃させるという治療法ですが、免疫の働きを高め過ぎてしまうと、自身の細胞や臓器を攻撃してしまうことがあり、副作用としてあらわれる可能性があります。これを免疫関連副作用といいます。
主な免疫関連副作用としては、皮疹などの皮膚障害、肺炎などの肺障害、下痢・腸炎などの胃腸障害、重症筋無力症・筋炎などの神経障害、甲状腺機能低下症といった内分泌障害などがあります。
重大な免疫関連副作用が起きたときは、免疫療法薬の投与を中止します。副作用の症状を和らげるために、ステロイド剤など、免疫を逆に抑える薬を使用することもあります。
気になる症状が出た場合は自己判断せずに、主治医や看護師、薬剤師に相談しましょう。

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 臨床教授 笠原寿郎先生