肺がんの放射線治療

肺がんの放射線治療 -放射線をあててがん細胞の死滅を目指す-

肺がんの放射線治療とは

放射線をあてて、がん細胞を死滅させることを目的とする治療方法で、手術と同じく、局所療法の1つです。

手術後に化学療法(抗がん剤)をおこなう理由

放射線治療装置と照射範囲

放射線のあたらない場所にあるがん細胞に対しては効果が期待できません。
そのため、離れた場所に転移がある場合(遠隔転移)には、薬物療法を組み合わせるなど、遠隔部分への治療も考慮する必要があります。

放射線治療は、がん細胞のある部位とその周辺に放射線を照射するので、薬物療法に比べると全身への影響が少なく、また、手術と違って臓器の形が変わらない点がメリットです。年齢やその他の病気が原因で手術や薬物療法を選択しない患者さんにもおこなえる治療です。

放射線治療には、がん細胞を死滅させて治癒を目的とする“根治的放射線治療”と、がん細胞を減らし症状をやわらげることを目的とする“緩和的放射線治療”があります。

緩和的放射線治療は、根治的放射線治療がおこなえない場合や、骨転移や脳転移への治療に対しておこなわれます。

放射線治療の種類と方法

・早期非小細胞肺がんで用いられる放射線治療

肺癌診療ガイドライン2024年版では、何らかの原因で手術ができない早期の非小細胞肺がんには、放射線単独治療が勧められています。

非小細胞肺がんのI〜Ⅱ期(ステージ1〜2)で手術を希望しない患者さん、高齢または他の病気などの理由で手術をおこなわない患者さんには、根治的放射線治療がおこなわれます。

・Ⅲ期(ステージ3)非小細胞肺がんでの化学放射線療法

Ⅲ期(ステージ3)で手術をおこなわない患者さんには、根治的放射線治療だけをおこなう放射線単独治療、または抗がん剤治療(化学療法)と根治的放射線治療を組み合わせておこなう化学放射線療法がおこなわれることがあります。
ⅢA期(ステージ3A)のうち、縦隔のリンパ節に転移があるときや手術で完全にがん病巣を取り除くことが不可能なとき、体力的に手術に耐えられないと判断されたとき、ⅢB/C期(ステージ3B/C)で化学放射線療法の適応と判断されたときには、化学放射線療法が第一選択になります。化学放射線療法の終了後には、再発予防のための「地固め療法」として免疫チェックポイント阻害薬による治療を選択することができます。地固め療法は4週間に1度、1年間おこなうことが勧められています。

抗がん剤が使用できないときには放射線単独治療が推奨されています。ただし、胸水がたまっているときは、放射線治療は第一選択にはなりません

・小細胞肺がんで用いられる放射線治療

小細胞肺がんは抗がん剤治療が治療の中心ですが限局型小細胞肺がんの場合は放射線治療を併用します(化学放射線療法)。
限局型小細胞肺がんは脳への転移で再発することが多いため、最初の治療で効果が十分に得られた場合は、脳への転移を防ぐために予防的全脳照射がおこなわれる場合があります。また、化学放射線療法の終了後には、効果を維持するために免疫チェックポイント阻害剤を投与する場合もあります。

・症状をやわらげるための放射線治療

がんにより症状が出ている部分にだけ、症状をやわらげる目的で、放射線を照射することがあります。
骨への転移による痛みや脳への転移によるいろいろな症状に対する放射線治療が代表的です。

・脳転移に対する放射線治療

非小細胞肺がんの場合、脳内に5個以上の転移があるとき(多発性脳転移)には脳全体に放射線を照射する「全脳照射」が標準治療です。転移が1〜4個で、直径3cm程度までのときにはピンポイントに放射線を照射する「定位放射線照射」をおこなうことが推奨されています。近年は定位放射線照射の技術が進み、10個以下の転移であれば定位放射線照射での治療もおこなわれています。
小細胞肺がんでは、多発性脳転移に対しては全脳照射が標準治療です。脳に転移したがんが10個以下であれば定位放射線照射がおこなわれることもあります。
ただし、定位放射線照射には特別な設備が必要なため、医療施設によっては選択できない場合もあります。

放射線治療で起きやすい副作用

放射線治療による副作用は主に放射線を照射した部位に起き、主な副作用には、放射線肺臓炎、食道炎、皮膚炎、白血球の減少などがあります。副作用が起きたら、それらの治療をおこないながら、放射線治療はできるだけ休まずにおこないます。

放射線肺臓炎は、放射線によって肺に炎症が起こることで生じますが、あまりひどい場合は放射線治療をいったん中止する場合もあります。ほとんどの方に起こりますが、治療が終われば時間の経過とともに軽快します。ただし、治療数ヵ月後に症状が現れることがあるので、放射線治療が終わった後も咳や発熱などの症状がある場合は、医師に報告して治療を受けてください。

食道炎は、胸部に放射線を照射したとき、その範囲内に食道がある場合に生じることがあります。食事のときに胸の痛みなどを感じたら、医師に報告して治療を受けるとともに、食事は刺激の強いものを避け、やわらかく水分の多い料理を選んでください。

皮膚炎は、放射線を照射した範囲の皮膚に炎症が起こることで生じます。赤みを帯びたり、かゆみを感じたりします。医師に報告して治療を受けるとともに、炎症の部位をかいたり、こすったりしないように心がけてください。

参考:
・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2024年版, 金原出版株式会社
・日本肺癌学会編:患者さんと家族のための肺がんガイドブック2024年版, 金原出版株式会社

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 教授 笠原寿郎先生