転移

肺がんの骨転移、副腎転移、皮膚転移、脳転移

肺がんの転移率

肺がんは比較的転移しやすく、骨、脳、肝臓、副腎、リンパ節などが好発部位です。
転移すると、部位に応じていろいろな症状が現れます。
脳に転移するとむくみが生じ、頭蓋骨内の圧力が高まって、頭痛や吐き気が起こることがあります。肝臓に転移すると、全身のだるさや、体が黄色くなる黄疸が現れることがあり、左右の肺を隔てる縦郭に転移すると、上大静脈が圧迫されて上半身がむくむことがあります。さらに骨の転移では、転移した部位に強い痛みを感じたり、骨折したりします。

肺がんの転移について知る

肺がんの転移検査と治療方法は?

肺がんであることが確定したら、がんの広がりを調べるためにCTやMRI、PETなどの検査を行います。
CTやMRI、PETなど検査の詳細についてはこちらをご覧ください。

CTの撮り方と画像の種類

MRI、骨シンチグラフィ、PET検査

肺以外へ照射する放射線療法

肺がんの骨転移について

肺がんでは、診断時にすでに骨転移があることも珍しくなく、約24%の患者さんで診断時に骨転移が認められたという報告があります。骨転移は小細胞肺がんに比べ非小細胞肺がんで起こりやすく、進行非小細胞肺がん患者さんの約30〜40%に骨転移が起こるとされています。
組織型では腺がんで多く、扁平上皮がんで少ないといわれています。

肺がんの骨転移の好発部位は肋骨、胸椎、腰椎などで、まれにひじから下、膝から下にも起こります。腰椎に転移すると腰痛を生じ、進行すると骨折を起こす恐れがあります。がんが広がった骨はもろくなっているため、健康な骨であれば耐えられる重さや衝撃でも骨折してしまうことがあります。これを病的骨折といいます。骨転移が起こったら、組織型にかかわらず、病期はIV期(ステージ4)です。

骨転移の治療法

骨転移の治療には薬物治療、放射線治療、外科的治療があります。
薬物治療では、主に骨折を予防するための骨修飾薬、痛み止めとしての消炎鎮痛薬、モルヒネなどの麻薬、ステロイド製剤が使用されます。骨の吸収と形成のバランスをとって骨折を予防する骨修飾薬には、ビスホスホネート製剤と抗RANKL抗体薬があります。また、ストロンチウム-89という放射線を出す薬剤を注射することで、骨転移による痛みをやわらげる方法もあります。
放射線治療は、骨転移による痛みをやわらげ、骨転移が脊髄を圧迫するために起きるまひを治療し、骨折やまひを予防するために行われます。
外科的治療では、骨転移による神経の圧迫を取り除き、弱くなった骨を補強して骨折を予防します。

最近は、画像検査の技術が進歩し、これまでは発見できなかった小さな骨転移も早期に発見できるようになりました。また、鎮痛薬以外に骨転移による痛みに効く薬剤も登場し、痛みの管理は格段によくなっています。骨転移の痛みはがまんせず、医師や看護師さんに相談しましょう。

肺がんの副腎転移について

肺がんが副腎に転移する頻度は、非小細胞肺がん患者さんの約20%といわれています。
副腎は、血圧を調整するホルモンや、血液中の糖や脂肪分を調整するホルモンなど、いろいろなホルモンを作っている臓器です。副腎に腫瘍ができると最初はほとんど症状はありませんが、進行すれば腹痛や背中の痛みが起こることがあります。

副腎転移の検査および治療法

転移をさがすための検査には、PET検査、CT検査などがあります。

MRI、骨シンチグラフィ、PET検査

CTの撮り方と画像の種類

転移が起こると、病期はIV期(ステージ4)となり、薬物治療が行われます。

肺がんの病期:ステージ1~ステージ4

肺がんの皮膚転移について

一般的にがんの皮膚転移は、がんが発症した臓器の近傍の皮膚に発現しやすいといわれています。しかし、肺がんが皮膚に転移する確率は比較的低いといわれています。
肺がんの皮膚転移の症状としては、一般的には結節型(塊のようなできものができる)、炎症型(発赤などの皮膚に炎症が出る)、強皮症型(皮膚が硬くなる)があるとされ、その中でも結節型が多いといわれています。痛みに関しても個人差があり、自発痛(何もしなくても痛いと感じる)、圧痛(触ると痛みを感じる)がある人もいれば、痛みを感じない人もいます。
さらに進行すると細胞が壊死して潰瘍を形成する場合もあります。潰瘍の症状としては、自発痛を感じたり、体液や血液がにじみ出たり、細菌が感染して生じる独特の不快な臭いなどがあげられます。

肺がんの脳転移について

肺がんの転移性脳腫瘍ともいいます。
脳に転移すると脳がむくみ、頭蓋骨内の圧力が上がるため、頭痛や吐き気が起こることがあります。脳の中枢に転移すると手足のまひが起こり、小脳に転移すると平衡感覚がおかしくなり、ふらつきがでたりします。

脳転移の治療法

脳転移の数が少ないときは、放射線治療や外科手術が行われます。以前は外科手術が主流でしたが、最近は患者さんの負担が小さい放射線治療が優先的に行われています。
放射線治療には、転移巣をピンポイントに照射する定位放射線照射と、脳全体に放射線を当てる全脳照射があります。定位放射線照射には、1回照射の定位手術的照射(ガンマナイフ)と複数回照射の定位放射線治療があります。どの方法を行うかは、転移の数や部位によって決められます。

脳転移に対する放射線治療では、髪の毛が抜ける、頭痛、だるさ、吐き気などがあらわれることがあります。

脳転移の数が多いときや、症状がないときには、薬物療法が行われることもあります。これまでは、薬物療法は脳転移に対して効果が期待できないといわれていましたが、抗がん剤や分子標的薬の中には脳転移に対して効果があったと報告されているものもあります。

予後と生存率

以前は、がんが脳に転移すると、末期で余命が短いと考えられていました。しかし、現在は放射線治療や薬物療法が進歩したおかげで、以前よりも長い期間、日常生活を送れるようになってきています。

脳転移が起きた後に病気がどのように進むかは、全身状態、頭蓋外に転移巣があるかどうか、年齢などによって決まると考えられています。

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 臨床教授 笠原寿郎先生